サラリーマン思考を捨てる! 起業で失敗したら? NewsPicksの創刊編集長が語る起業のリアル

ビジネス

更新日:2021/11/2

『起業のすすめ さよなら、サラリーマン』(佐々木紀彦/文藝春秋)

 起業という選択を、自分のキャリアの中にどれだけ現実的なものとして考えているだろうか。筆者(20代会社員)は副業OKな企業で働いているから、キャリアについては転職だけでなく、本業以外にどんな仕事がしたいかもよく話題にのぼる。だが、「起業したい/するつもりだ」といった話はさっぱり聞かない。だから起業を知識としては知っていても、実際に自分が飛び込んでいくビジョンは持てないでいた。

 本書『起業のすすめ さよなら、サラリーマン』(佐々木紀彦/文藝春秋)は、そんな起業の世界に、たしかな輪郭を与えてくれる本だ。内容はタイトルの通りだが、よくある起業家の成功譚ではないところが珍しい。著者は、経済ニュースメディアNewsPicksの創刊編集長として知られる佐々木紀彦氏。2020年にNewsPicksを退社し、2021年に「PIVOT」を創業している。本書は、佐々木氏が起業に向けて多くの経営者たちから話を聞き、書き上げたもの。自分の体験ではないからこそ、うさん臭くない、リアルな起業家像が描かれている。

起業家になるべき理由は?

 著名な企業を退社して起業の道を選んだ佐々木氏は、起業家のどこに惹かれたのか。本書では以下の5つの要素を挙げている。ちなみに、本書でいう「起業家」は、ゼロから会社を興す人だけでなく、社内で新規事業を立ち上げる人や、既存の事業を変革する人なども含んでいる。

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1.サラリーマン思考から卒業できる
2.キャリアアップにつながる
3.金銭的な報酬が大きい
4.人生の自由を得られる
5.社会を変えられる

 特に「1.サラリーマン思考から卒業できる」は大きいようだ。いわゆるサラリーマン的な働き方と、起業家の働き方は根本的に違う。優秀なサラリーマンは既存の事業を引き継ぎ、安定的な環境で確実な成功を目指す。それに対して、起業家は不確実な状況の中で、プロジェクトを自ら実現しなくてはならない。こうした力を鍛えていけば、仕事の結果で社会に大きなインパクトを与えられるし、キャリアアップや報酬アップにもつながるだろう。「3.金銭的な報酬が大きい」の項目では、起業家のリアルなお金事情が書かれている。創業経営者は、役員報酬だけではなく株式からも報酬が得られる。著者いわく「ユーチューバーより夢がある」らしい。

起業で失敗したらどうなる? 借金、再就職は?

 起業家として活躍できればたくさんお金がもらえ、社会的な影響も与えられる――。なるほど、たしかに魅力的だ。とはいえ、そう簡単に飛び込めない理由は、やはり失敗したときのことを考えてしまうから。本書では夢物語を語るだけでなく、起業のリスクについてもきちんと述べている。

 一般的に起業は「宝くじ」のようなイメージがある。当たれば一攫千金、負ければ借金まみれ。一度会社を辞めてしまうと、つぶしも利かなそうな気がする。だが、よくよく考えると、そこまで「一か八か」な話ではなさそう。まず、スタートアップの資金調達方法は株式である。たとえ事業に失敗しても、株の価値が0になるだけだ(ただし、「株式買取請求権」には注意。詳しくは本書を参照)。また、「再就職できないのではないか」という不安もあるが、著者はこれからの時代、起業経験がプラスになるのではないかと語る。起業によって培われる当事者意識や経営者視点は、どこで働くにも大きな強みになるからだ。

 本書では他にも、起業家になるための5つのキャリアタイプや、起業する際にどうやってパートナーを探せばいいかなども具体的に紹介している。お金もキャリアも、失敗したからと言って今まで積み上げてきたものが0になるわけではない。本書を読み終えるころには、「失敗したらまたサラリーマンをやればいい」くらいの気持ちで起業をしてもいいんじゃないかと思えるようになっていた。

文=中川凌