バッドエンドな恋に泣いた「あの日の自分」がここにいる。5分で読める22人の純猥談

恋愛・結婚

公開日:2021/11/6

純猥談 私もただの女の子なんだ
『純猥談 私もただの女の子なんだ』(純猥談編集部:編/河出書房新社)

 もう一生分、人を愛した。そう思えるほど最低で最高な恋に溺れた経験をしたことがある人はきっと多い。

 相手に自分への気持ちなんてないと分かっていながら隣で眠ったり、守られた試しがない「また連絡する」の言葉を信じながら携帯を握り締めて電話を待ち続けたりする…。それは、今この瞬間にもどこかで誕生している恋愛エピソードではないだろうか。

 そんな恋をしたことがある、もしくは現在している人の心に染みるのが『純猥談 私もただの女の子なんだ』(純猥談編集部:編/河出書房新社)。本作はシリーズ累計12万部の大ヒットを記録した、5分で切なくなれるショートストーリー集『純猥談 一度寝ただけの女になりたくなかった』(河出書房新社)の第2弾。

advertisement

 本シリーズは、Webサイト「純猥談」に投稿された体験談を加筆・修正し収録したもの。「私が主人公だったかもしれない性愛にまつわる誰かの体験談」を掲載しているため、書籍名には「猥談」という言葉が使われているが、過度なアダルト表現はないので手に取りやすい。

 前作同様、今作も収録作の大半はバッドエンドな恋愛談。Suicaの履歴を見て彼氏の浮気を知りこれまでの幸せが一瞬にして崩れてしまった日の話や、彼氏から「好きな人ができた」と打ち明けられた3年記念日の話など、心を抉る22の恋愛は自分が経験してきたものとまったく同じではないにしても重なる部分がどこかにあり、胸が締め付けられる。

私の経験談だったかもしれない22のショートストーリー

 数ある収録作の中でも、特にグっと来たのがiroさんの純猥談。仕事終わり、彼からとあるビルが崩壊したことをLINEで聞いたiroさんは、同い年の元カレと過ごしたかけがえのない時間を思い出した。なぜなら、崩壊したビルは元カレに処女を捧げたラブホテルだったから。

 当時、高校生だったiroさんたちはお互いに強く惹かれ合い、愛し合っていた。

“それはもう今まで馬鹿にしてきたような恥ずかしいラブソングの歌詞さえも私たちのためにあるかのような気がしてしまう程で、会える日が待ち遠しくて仕方なかった。”

 付き合って1カ月を迎える頃、iroさんは彼のお願いを受け入れ、ラブホテルへ行くことを約束。

“私たちは午前8時に約束をしてラブホテルに行った。「夜遅くまではいられないから、だったら朝早く集合しよう」という高校生らしい可愛い理由だった。”

 ホテルに入ったふたりは繋いだ手から緊張が伝わらないよう、精一杯大人のフリ。密室の中で、iroさんはこの上ない幸せを感じた。

“溜めた湯船からふたり分のお湯が溢れていくように、愛しい感情が溢れた。”

“愛という見えないものがはっきりと目に見えるような気がして涙が出そうになった。”

 18歳の私たちにとっての世界は、確かにあのラブホテルの中にあったのだと思う――。そう語るiroさんは別れて4年経った今もふと、彼のことを思い出して泣くことがあるそうだ。青くて儚い、iroさんの恋。それに自分の恋の記憶を重ね、何とも言えない気持ちになる人は意外に多いのではないだろうか。

 叶わなかった恋、想いを告げられなかった恋、そして離れるべきだと分かっていてもそばにい続けたかった恋など、人はさまざまな恋愛に溺れ、疲れ、絶望し、また誰かを愛す。大切な人の「たったひとり」になれなかったという事実は痛いけれど、私たちを強くしてくれ、愛に気づくきっかけも授けてくれるのだ。

 少し詩的な文体で綴られている本作は「エモい」。けれど、その3文字だけでは片付けられず、心の奥に秘めている感情を引きずり出す。あなたは誰かを必死で愛した「あの日の私」を、ここで見つけるはずだ。

文=古川諭香

あわせて読みたい