元ホストとクールな年下運転手がバディを組む「長距離バス」に今日も“事情を抱えた客”が乗り込む…!温かなヒューマンドラマ

マンガ

公開日:2021/12/1

おかえり、南星バス
『おかえり、南星バス』(まどさわ窓子/白泉社)

 突然だが、あなたは「親切」と「お節介」の狭間で悩んだことはないだろうか? 筆者は昔、電車内で年配とおぼしき女性に席を譲ったところ、「もうそんな歳に見えるのね…」と悲しい顔で言われた苦い思い出がある。その際に、誰かに気遣いをしたいと思った時は、相手の内面や事情をよく考える必要があること、そして、「自分が気持ちよくなりたいだけの親切」は、ただの「お節介」でしかないことを痛感した。人との距離が物理的にも遠い今のご時世、時に愛すべきお節介に救われることもあり、その案配が難しいところではあるのだが…。

 まどさわ窓子先生の初コミックス『おかえり、南星バス』(白泉社)は、「誰かを助けたい」という思いを抱えた、長距離バス「南星バス」の運転手2人と、個性豊かな乗客たちが繰り広げる一期一会の人間ドラマが描かれる。運転手は、明るくてよくしゃべる、元ホストの陣と、南星バスでは最年少の無口でマイペースな鳴瀬。2人は正反対の性格ながら、日本で最大のバスターミナル・バスタ新宿から富山までの約9時間、バディを組み、二人走行(ツーマンドライブ)を行っている。万全を期して往路を走り無事に帰路に就く。南星バスの社員たちは、その道のりを舟になぞらえて「航海」と呼んでいるのが非常に印象的だった。

 バスに乗車した後で、お弁当を買い忘れたから、バスで店に寄れと、無理難題を叫ぶ中年女性、映画の撮影が控えているという、マネージャーなしでバスに飛び乗った、かつての人気女優、妹の容態が急変したからバスに乗りたいと話す認知症のおばあさん。南星バスには様々な乗客が乗車する。乗客の複雑な事情がチラリと垣間見えようとも、首を突っ込まず、目的地まで安全に送り届けるのが運転手の使命――。…のはずなのだが、個人的な事情には頑として口を出さない鳴瀬に対して、目の前の困っている人を放っておけない正義感の強い陣は、度々トラブルに介入し、事を大きくするような真似をするなと会社で問題視されていた。

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おかえり、南星バス

おかえり、南星バス

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 中でも、小さな女の子が一人で、家出同然のように長距離バスに乗車した際、陣は、彼女を無事に目的地まで送り届けた後、危険な目に遭っているのを目撃する。そして、走行途中で自らバスを降りて助けに行き、大問題になってしまうのだが――!?

 本作は、まだまだ大人数での旅行が難しい今の時期、キラキラ輝く大きな長距離バスの美しさにうっとりするのはもちろん、深夜にサービスエリアのご当地ラーメンを食べるシーンがあまりに美味しそうに描かれており、その非日常感に胸が高鳴る作品でもあった。

おかえり、南星バス

おかえり、南星バス

 また、乗客や運転手、彼らの“航海”を事務所からサポートして、しっかりと支える社員の仕事ぶりにも胸を打たれた。乗客を救いたいあまり、その気持ちに忠実に行動した結果、周囲に迷惑をかけてしまうこともある陣。そんな彼を見て、会社の立場や乗客、どちらも鑑みて、全体を広く見渡しながら仕事をする難しさも痛感したし、「人助け」と「お節介」の差は一体何なのだろうと考えさせられた。元ホストの陣と、物静かな鳴瀬。正反対の2人だからこそ、次第に素敵なハーモニーを奏でて、良い仕事をすることがわかってくる。人の気持ちや風景が、優しく繊細に描かれた長距離バスのマンガである。

文=さゆ

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