北条氏はどうのし上がった? 時政&義時がエグい! NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を観るのが面白くなる入門書!

社会

更新日:2022/1/12

北条氏の時代
『北条氏の時代』(本郷和人/文藝春秋)

 2022年に放送される61作目のNHK大河ドラマは、平安時代末期から鎌倉時代を舞台とした『鎌倉殿の13人』だ。大河ドラマは戦国~江戸時代や幕末が舞台となることが多く、これまでに平安時代末期~源平合戦~鎌倉時代が舞台となったのは『源義経』(1966年)、『新・平家物語』(1972年)、『草燃える』(1979年)、『炎立つ』(1993~94年)、『義経』(2005年)、『平清盛』(2012年)であり、『鎌倉殿の13人』を含めても7作という少なさなのだ(ちなみに鎌倉~南北朝時代を舞台にした大河ドラマは、1991年放送『太平記』と2001年放送『北条時宗』の2作)。

 なぜ少ないのか? それは日本という国では、戦国時代と幕末にだけ「下剋上チャンス」があったからだろう。それ以外の時代(明治以降を除く)では、ほとんどの人が家業を継ぐ(もしくは同じ仕事をする)のが普通で、身分が上がったり立身出世するなんてことはほぼ不可能だった。そのため、1年をかけて主人公が数々の困難をクリアし、のし上がっていくダイナミックな展開が難しいことが原因として考えられる。

 しかし「鎌倉時代は面白い」と力説するのが、鎌倉時代を中心とした日本中世史が専門の本郷和人先生だ。本郷先生は最新刊『北条氏の時代』(文藝春秋)の「はじめに」で、大河ドラマで鎌倉時代というとマイナーなイメージがつきまとうが、鎌倉時代こそ日本史の大きな転換点&ドラマティックな面白い時代でもあることを“声を大にして言いたい”と書いている。その理由として「武士が日本史の新たな主役として登場したこと」「日本史の舞台を大きく東へと拡大した時代であること」「暴力と陰謀に明け暮れていた武士たちが、統治や法による支配に目覚めていったこと」があるという。

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 それを念頭に置き、田舎の無名の一族だった北条氏がどうのし上がったのかと本書を読み進めたところ……時代の風を読み、ここぞというタイミングで謀略と暗殺を繰り返してライバルを次々と蹴落としていく北条氏の祖・時政がとんでもなくエグい! 鎌倉幕府を興した源頼朝亡き後に将軍となった嫡男・頼家から権力を奪った、ドラマのタイトルにもなっている「13人の合議制」をプロデュースしたのも北条氏だろう、と本郷先生は考えているそうだ。その後も「おいおい、それは揉める原因!」ということばかりする時政。そして父・時政と対立する、『鎌倉殿の13人』の主人公・義時の覚悟と決断があって、やがて朝廷を打破して権力を手中に……となるのだが、実は義時も、最初は「いやいや私なんて」と断りつつも「皆さんがそこまで言うならば」と腰を上げ、やったらやったで徹底的に潰す、というなかなかのエグい人物であった。

 本書にはその後執権として幕府の実権を握り、「日本型リーダーシップの原型」と本郷先生が指摘するようなシステマティックな統治をした北条一族の歴史が、新説を織り込みながら(本郷先生は鎌倉幕府の成立を1180年と考えているそうだ)わかりやすく説明されている。しかし驕れる人も久しからず。1333年、北条氏は足利尊氏に討たれ、鎌倉幕府、さらには北条氏も滅亡……と思いきや、義時の子孫で得宗家(本家の当主)の北条時行が生き残り、仲間を得て反撃していく。この時行、文永・弘安の役で蒙古軍を退けた八代執権時宗の曾孫にあたり、『暗殺教室』の作者・松井優征が描く今話題のジャンプコミックス『逃げ上手の若君』(集英社)の主人公なのだ(こちらも本郷先生が監修とコミックス巻末の解説を担当)。漫画は史実をもとにした大胆なエンタメ作品であり、戦うことよりも逃げることに才能を発揮する時行の運命が描かれている。こちらも大河同様、大注目作だ。

 とにかく鎌倉時代は始まりからその終焉まで、学校の授業で日本史を勉強した人の予想をはるかに裏切るアグレッシブでダイナミックな時代であった。

『鎌倉殿の13人』は「三谷幸喜が贈る予測不能エンターテインメント!」と謳われているが、実際にあった歴史や説を知った上で「ほほう、こう来ましたか!」と見るのが大河ドラマをより一層楽しむ秘訣だ。2022年は北条氏の勃興と隆盛、そして滅亡と逃亡までを、1192年(いい国作ろう鎌倉幕府)で覚えた人も、1185年(いい箱作ろう鎌倉幕府)で暗記した方も、ぜひ新書と漫画をセットでお楽しみいただきたい。

文=成田全(ナリタタモツ)

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