孤独な女子大生が出会ったのは酒呑童子の子孫!? お酒から生まれた友情を描く『酒と鬼は二合まで』

マンガ

公開日:2022/1/15

酒と鬼は二合まで
『酒と鬼は二合まで』(羽柴実里:原作、zinbei:作画/スクウェア・エニックス)

「私のバーテンダーになって」。孤独な女子大生が“鬼ギャル”と初めて会ったその日に言われたセリフだ。

『酒と鬼は二合まで』(羽柴実里:原作、zinbei:作画/スクウェア・エニックス)は、ひょんなことから女子大生二人が同居を始めるマンガである。ただし一人は人間ではない。伊吹陽奈多(いぶきひなた、以下ひなた)は酒を栄養にして生きる鬼なのだ。そんな彼女と、バーテンダーになりたい志田波織(しだなおり、以下ナオリ)の出会いから物語は始まる。

“鬼”ギャルと“酒好き”ぼっち女子大生が同居する話

 大学の飲み会で、ひときわ美人で目立つギャル・ひなたは一杯も飲もうとしない。ナオリは無理に飲まされそうになっていた彼女を思わず助ける。ただひなたは一滴も飲んでいないはずなのに倒れてしまった。ナオリは「病院は不要」と言う彼女を休ませようと、自分のアパートへ連れて行く。

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 そこでひなたは目を丸くする。バーテンダーを目指すだけあって、ナオリの部屋はお酒でいっぱいだったからだ。「お酒作ってくれたりしない?」喉をゴクッと鳴らしてひなたが言う。1年以上通った大学(と周り)になじめずにいたナオリには、友達がいなかった。彼女にとって、これは他人にカクテルをふるまえる絶好の機会だった。

 ナオリは「飲み会ではお酒を拒んでいたのに?」と少し不思議に思いながらも、嬉々としてシェーカーを振る。すると疑問の答えはすぐに判明した。「闘牛士(マタドール)」をおかわりするひなたの頭に2本の角が生えていたのだ。彼女は自分が酒好きの鬼「酒呑童子」の子孫だと言う。

 鬼には「人間が与えた酒しか飲むことができない」という呪いがかけられていた。しかも鬼は酒により、意志と関係なく角(つの)が発現してしまうのだ。

 ひなたは「ナオリ、あたしのバーテンダーになってよ」と言う。

 ひっそりと生き(させられ)ている鬼の家を飛び出したひなた。それは鬼の呪いを解くと言われている「神変奇特酒」(しんぺんきどくしゅ)を探すためである。ただ彼女が独立して生きるためには、「酒を与えてくれる人間」が必要だった。

 秘密を打ち明けられて、ナオリは葛藤し、躊躇し、最後にはこう口にする。

私のお酒をちゃんと見て
飲んで美味しいと言ってくれたの
身内以外ではあなたが初めてだった
だから大事にしたい

 カクテル作りが好きな女子大生とギャル鬼の同居生活が始まった。ひなたは「神変奇特酒」を探すつもりがあるのかないのか、ダラダラし夜遊びをし、ナオリは彼女にカクテルを作る。大学生らしい二人のゆるい日常……だがこれは長くは続かない。

 物語はひなたの親戚・伊吹巳影(いぶきみかげ)の登場で風雲急を告げる。

 ひなたを一族に連れ戻すためにやってきたと巳影は言う。ひなたには「あの人間にちゃんと話してあげなさい“一族の事”“あなたの運命”について」と。ナオリには「ひなたに協力するのなら、目的を達成するために彼女に酒を飲ませて鬼の本来持つ能力を引き出すべき」と。

 謎を抱え、不穏な空気のまま、本格的に伝説の酒探しが始まる。そして一気にシリアスモードに……。果たして二人は「鬼の呪いを解く」という目的を達成できるのか。

出会って幸せになれた女子二人の“酒テロ”マンガ

 秘密を抱えた孤独な鬼と、周囲になじめない酒オタクの女子。二人はともに生きづらさを抱えていた。

 ひなたは人間が大好きだったが、当然自分のことは話せないでいる。ただ初対面の飲み会で助けてくれたナオリを気に入り、思い切って自分をさらけ出した。ナオリもまたこの出会いで、ようやく趣味嗜好の合う友人と自己肯定感を手に入れている。

 今“ぼっち”で悩んでいる方には参考になる話だ。ポイントは偶然の出会いを大事にすること、そして自己開示の重要性である。人と会って自分を出していけば、お互い大切だと思える相手にきっと出会えると教えてくれる。

 最後に、ナオリが作るカクテル「唐辛子をきかせたレモンサワー」「濃い紅茶入りコアントロー、凍らせたオレンジ増し」「スミノフのホットアップル」はレシピもリアルで、思わず「飲みてぇ!」となる。お酒と割り材を常備している私のような人にとっては、“飯テロ”ならぬ“酒テロ”なマンガなので、作品にハマっても、飲みすぎには注意!

文=古林恭

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