忍者研究の第一人者による「現代でいかせる忍術」とは? 忍者に学ぶ記憶術と心理術

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公開日:2022/4/5

実践! 忍術の手引き
『実践! 忍術の手引き』(山田雄司/BABジャパン)

「NINJA」といえば国内でも海外でも人気だが、案外、私たちは自国の「忍者」についての理解が浅いのかもしれない。忍者が使う忍術は、魔法のようなものではなく、実際に私たちが現実社会でいかせる知恵や技術のようなのだ。

 忍者研究の第一人者・山田雄司氏が上梓した『実践! 忍術の手引き』(山田雄司/BABジャパン)は、本物の忍術と忍びの心を伝えている。この中には、私たちが現代でもいかせる内容がちりばめられている。

 本書によれば、「忍」の漢字はまさに忍者のあり方を表している。なぜ、刃の下に心があるのか。これは、どのような状況であっても耐え忍ぶ心を表現しており、怒りや邪欲などの悪念が起こったら心の上の刃で切断し、元の心に戻すことも意味している、という。耐え忍んで自分の感情を努めてコントロールする忍者のあり方は、混迷の中にある現代社会を生き抜く助けになるだろう。

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 本書は忍者の心得、忍び込む極意、情報の操り方、人間の識り方、自然や状況の識り方で章立てされているが、本稿ではこれらの中のごく一部、「忍者の記憶術」と「忍者の心理術」を簡単に紹介したい。

 忍者は時に、一国を左右する重要任務に就くことがあり、情報の読み間違いや失念は許されなかった。現代人にとっても、進路や将来を決定づける試験、社運を左右するプレゼンテーションなど、記憶力が物を言うシーンが多々ある。忍者はどのように物事を記憶していたのだろうか。

 本書によると、17世紀後半に成立したと考えられる忍術伝書『当流奪口忍之巻註』「心覚目録之事」には、何事でも覚えていようと思うときは「物に変換して覚える」のがよく、変換の仕方には方法があったと書かれていたという。常にありふれた物に変換すると忘れてしまうため、変わった物に変換するのだ。本書の例では、「墨」を覚えようとしたなら、「何年何月何日にどこからかとても大きな墨をもらった」というように、誇張変換して覚えるのだそうだ。

 また、順番になっているものを覚えるなら、例えば自分が知っている家の並びの順番に変換して覚える。「おおげさにして覚える」「自分のよく知っている物に置き換えて覚える」というように、複数の情報をリンクさせることで覚えやすくする、というのは現代の脳科学でも実証されている、と著者は述べている。ちなみに、甲賀伴党宗家・川上仁一氏によると、指を板に叩きつけて痛みや刺激を与え、時には刃物で体に傷をつけることによって恐怖で情報を覚えるという「不忘の術」が現代にも伝えられているそうだ。

 また、忍者は相手の心理を読み取る術にも長けていた。前述の『当流奪口忍之巻註』や『正忍記』には、相手から情報を得ようと思ったら、「すぐに聞きたい内容を聞こうとするのではなく」「さまざまな話をして相手を気持ちよくさせ」「相手の言葉の端々から重要な内容を引き出すようにする」といった記述があるそうだ。具体的には、相手から情報を聞き出すとき、自分は少し抜けたうつけ者であるかのようなふりをして相手を持ち上げ、相手が秘密にしていることの断片を逃さずにたたみかけて聞いていく。現代でも少なくない人が用いている心理学テクニックは、すでに忍者が当たり前に活用していたのだ。

 本書を読めば、忍術の数々が“過去の古い役立たない術”ではないことがわかる。不安定な世の中だからこそ、先人が磨き上げた知恵や技術を受け継ぎ、力強く生き抜いていきたい。

文=ルートつつみ (@root223

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