「ガンダム・フレーム」が少年たちにもたらす、強大な力。『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 特別編』第4話

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公開日:2022/5/14

機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』©創通・サンライズ

 言葉は武器よりも強し。少年たちの戦う力を支えるのは、少女の放つ言葉の力。

『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』特別編#4は、TVシリーズ第14話「希望を運ぶ船」から第17話「クーデリアの決意」までの「コロニー編」をまとめたエピソードだ。

 テイワズから輸送依頼を受けていた鉄華団は、地球へ向かう前にアフリカンユニオンの公営会社が管理するドルトコロニーへ向かう。そこは地球圏の人々のための生産拠点であり、労働者たちは過酷な労働を強いられていた。会社に対して武装蜂起を計画する労働者たちをめぐり、さまざまな策謀がめぐらされ、月外縁軌道統合艦隊アリアンロッドがコロニーを攻撃。クーデリア・藍那・バーンスタインの侍女フミタン・アドモスが撃たれてしまう。戦いを止めるべく、クーデリアはテレビ放送を通じて、地球の人々に真相を明かすのだった。

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 特別編#4では、さまざまなメカが次々と登場する。宇宙戦闘用に形態を変えたガンダム・バルバトス、宇宙海賊が使っていた機体を改修したガンダム・グシオンリベイク、自分の好きな機体色に塗って愛機として改修したガンダム・フラウロス(流星号)、敵となったギャラルホルンが投入したガンダム・キマリス……。宇宙空間を縦横無尽にメカが飛び回り、撃ち合い、組み合う。まさにロボットアニメの醍醐味を味わえるエピソードだ。

 ロボットアニメに登場するロボットは、大きく分けて3つの役割を担っていると言われる。ひとつ目は「兵器、武器」としてのロボット。パイロットたちは、ロボットを大きな破壊力を持つ道具として、敵対勢力と戦うために用いる。ふたつ目は「自分自身の拡張」としてのロボット。パイロットはロボットを操縦することで、普段の自分を超えた大きな力を得る。空を飛んだり、宇宙を舞ったり、巨大な手で何かをつかんだり、場合によっては遠くを見たり。普段の自分にはできないことを可能とするものがロボットなのだ。そして三つめは「キャラクター」としてのロボットだ。ロボットアニメでは、ロボットが主人公の肉親の象徴だったり、ロボット自体にドラマがあったりと、キャラクター性を持っていることが多い。主人公はロボットを操縦していくうちに、さまざまな人物と対話し、関係を結んでいくのだ。

 ロボットアニメにおいて、ロボットは主人公が社会や世間と向き合うための、ひとつの手段であり道具なのである。

『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』に登場する「ガンダム(ロボット)」とは、約300年前に起きた戦争〈厄祭戦〉で力を発揮した兵器、という設定になっている。戦争が終わったあと「ガンダム・フレーム」はある場所では打ち捨てられ、ある場所では歴史的な遺物として保存されてきた。長い時間が経つにつれて、その名は忘れ去られてしまったが、その力そのものは3世紀経った現在でも健在だった。

 三日月・オーガスが乗るガンダム・バルバトスは、火星のクリュセで見つかったガンダム・フレーム。三日月たちが働いている民間警備会社CGS(クリュセ・ガード・セキュリティ)の基地の電力源として使われていたという。この「ガンダム・フレーム」の特徴のひとつは、拡張性の高さ。バルバトスは戦いを重ねるごとに、敵機から奪った武装を装備していくことで、どんどん姿を変え、強化されていくことになる。今回の特別編#4では、宇宙に出てカラーリングを変えた第2形態までを見ることができる。敵の武装を加工して強くなっていくところは、ゲームを思わせる成長要素。ゲーム的な面白さを織り込んでいるあたりに、ゲーム的な想像力を持つ世代のクリエイターによるモビルスーツ、という趣を感じる。

 本作で「ガンダム・フレーム」は何体も登場するのだが、その総数は全部で72体という設定が明かされている。いずれもバルバトスやキマリス、グシオンと、旧約聖書に登場する古代イスラエルの王・ソロモンが使役した悪魔72体から名前が付けられている。その名前からもわかるとおり、本作における「ガンダム・フレーム」とは神や悪魔のような絶対的な力を表しているのだろう。本作において、三日月たちガンダムに乗るパイロットたちは、体の背骨の部分に「阿頼耶識システム」という機械を埋め込み、ガンダムと一体化するという操縦方法になっている。本作でガンダムに乗ることは、悪魔に魂を捧げるということを指している。「悪魔」と契約を結ぶことで、少年たちは力を得るのだ。ガンダム・グシオンリベイク、ガンダム・キマリス、ガンダム・フラウロス(流星号)。強すぎる力は、多くの人々の運命を狂わせていく。

 ガンダムに出会った少年たちは、これまでにできなかったことができる力を得た。その力に意味を与えるのが、クーデリアの言葉だ。クーデリアは宇宙や火星で暮らす人々の格差を訴え、自らの正義を主張したのだ。クーデリアの言葉は世界中に放送され、彼らの戦いの正当性と進む道を切り開く。いよいよ物語の舞台は地球へ。鉄華団の物語は佳境を迎える。

文=志田英邦

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