第20回「戒めパンティー」/森田哲矢(さらば青春の光)連載

エンタメ

2016/10/15

日々底辺の生活を送っている中、前回の『ヤリマン2万7千円事件』に各方面から予想外の反響をいただき、何となく報われた気持ちに浸っている今日この頃です。

かなりの長文にも関わらず色んな方々に読んでいただき、ロッチの中岡さんからは、

「長かったから飛ばし飛ばしで読んだけどそれでも面白かったで!」

というクソ読者一番の賞賛の声もいただきました。

あれからというもの岸はちょくちょく僕に連絡してくるようになり、なぜかちょっと高めのお洒落なイタリアンを奢らされ、全盛期の落合福嗣の如くマルゲリータを口に頬張りながら、「早くみゆきちゃん達とコンパしましょうよ~」ばかり言ってくるモンスターへと変貌を遂げました。

そこには岸畑任三郎の面影は1㎜もなく、ただただ僕の財布を蝕む童貞大学生の姿しかない。

このままこいつと付き合い続ければヤリマンから返してもらった筈の2万7千円なんて軽く超えてしまうという恐怖が僕を包んでいます。

さて、そんな中、この夏僕の身に降りかかったもう一つの事件。




『さらば青春の光 キングオブコント2016 2回戦敗退』




4年連続決勝進出中だったコンビが今年まさかの2回戦敗退。
お笑い史に残る大事件、大ゴシップです。

「うるせえ! なにが“まさかの”だ! ただ単にお前らの実力不足だろ! ヤリマンと遊んで調子に乗ってるからそんなことになるんだよ! バーカ!」

こうおっしゃられる方もいるかもしれません。
しかし、恥ずかしげもなく言います。



さらば青春の光ですよ?



日本中にいたとんフィーバーを巻き起こした2012年の初出場を皮切りに2013、2014、2015と前人未到の4年連続決勝進出、キングオブコントの顔とも言われていたあの、



さらば青春の光なんですよ?



「てめえはさっきから何をほざいてんだ!? さらば青春の光ですよ? さらば青春の光だから落ちたんだよ! お前らのことなんて誰も知らねえよ! いたとんフィーバー? そんなもんこれっぽっちもなかっただろ! 着ボイスのダウンロード件数11件のクソフレーズでよくもそこまで言えたもんだな!」

そう思った方にもう一回だけ言います。



さらば青春の光ですよ?

4年連続決勝進出のさらば青春の光ですよ?

そのさらば青春の光が2回戦ちょっとズルズルにすべっただけで落とすかね?



いや、もうやめときましょう…

このままいけばどんどん墓穴を掘って嫌われるだけです。そもそも2回戦ズルズルにすべったって言っちゃってますしね。

僕らの夏はここで終わりを告げました。
その直後、居酒屋のテレビで観たリオオリンピック女子レスリング決勝。

顔が似ているとよく言われ、バラエティ番組でモノマネも披露したことがある吉田沙保里選手が、リオオリンピックで銀メダルに泣きくずれる姿に自分を重ね合わせ感傷に浸っていました。

「いや吉田沙保里は決勝いっとんねん!!」

と僕の頭を叩いてくるニューヨーク屋敷。
こいつも同じく2回戦で落ちた戦友。

「リオじゃなくてニューヨークオリンピックやったらよかったのにな!」

一同失笑。なぜならその日は男だけの飲み。何一つテンションの上がらない飲み。

思えば2回戦落ちが決定した夜、五反田のいつも贔屓にしている回春マッサージ店の風俗嬢に、キングオブコントの2回戦で落ちたことを打ち明け、その辛さに全くピンと来てないであろう風俗嬢にほぼ無感情で頭をなでなでしてもらい、その後普段通りのハンドフィニッシュ。

大好きな風俗でなんとか心のバランスを保っていたつもりでしたが、賢者タイムに強烈な罪悪感が襲ってきました。



お前は何を勝手に満足してるんだ?
2回戦で落ちた人間が気持ち良くなっていいわけないだろ?
こんな店に来る前にお前にはもっとやるべきことがあるんじゃないのか?

急に現実に引き戻されました。
そうです、僕にはもっとやるべきこと、行くべき場所があったのです。

いつも贔屓にしている楽園のような風俗に行ってる場合じゃない。2回戦で落ちた自分を戒めなければならない。

そう考えた僕のイチモツは、鶯谷の方角を指していました。
鶯谷に本拠地を構える東京一インパクトのある“ブス専門”の風俗店。
この風俗店のコンセプトは、

「当店をどうぞ罰ゲームにお使いください。一般的に“地雷”と呼ばれる女性を多数ご用意してお待ちしております」

というのが売りのお店。
スキマ産業の最果てのような店。

前からその店の存在は知っていたものの、この店にだけは一生行くまいと思っていた僕でしたが、やはりもう2回戦で落ちるようなヘマを2度と犯さない為には、この風俗店で自分を戒めるしか方法はない。

かつて先輩のシソンヌさんが2014年のキングオブコントで優勝した際に披露したネタ、『くっせえラーメン』

パチンコに負けたじじいが2度と負けない為に、くっせえラーメンを食べて自分を戒めるネタ。
まさにあれと全く同じ発想です。

僕は自分自身も中々のブサイクだという事実を完全に棚に上げ、この店を自分への戒めの為に使わせてもらおうと考えました。

その店のテーマはずばり野球。
なので、ホームページに書かれている全ての項目を野球になぞらえています。
例えば普通の店では
「在籍女性一覧」と書かれている項目もその店では「登録選手データ」となり、
「出勤表」と書かれている項目もその店では「スターティングメンバー」と書かれています。

そして何より目を引くのが登録選手、いわゆる在籍している女の子達の源氏名が全て野球選手の名前になっていること。

黒田

阿部

定岡

工藤

スタンリッジ

バース

etc…

往年のスター選手から現役の選手までが名を連ねている。

一人一人のデータをなんとなく見ていると、歯がほとんどない方や、なぜか襟足をざっくり刈り上げてる方、中には57歳と書かれた方もいらっしゃる。

一度は覚悟を決めた筈の僕の全身を恐怖が襲う。

新宿で先輩達数人とご飯を食べながらその店のホームページを見ていましたが、全員が「こいつマジでここ行くんか…」の目を向けてくる。

しかし、勇気を振り絞り、その店に電話をする僕。

僕「あのー…1時間後ぐらいにそちらに伺いたいんですが、ちなみになんですが、黒田さんは空いてますか?」

受付「黒田選手ですか?」

あっ、選手って言うんや。

受付「全然空いております」

全然空いてんねや。

僕「阿部さんは空いてますか?」

受付「全然空いております」

全然空いてんねや。

僕「定岡さんは空いてますか?」

受付「全然空いております」

全員めちゃくちゃ空いてるやん。

僕「分かりました。じゃあとりあえず1時間後に70分コースでお願いします」

言った!言ったぞ!もう知らんぞ!

受付「8千円になります。ではお待ちしております」


ヘルスとしては格安の8千円。
そしてもうけして後戻りは出来ない。

自分で勝手に赤紙を発行し、それを自分で受け取り、一人で泣き崩れる。戦争も起こっていないのに。
たった一人の竹やり部隊。

今までの決勝に行った4年間の辛くも楽しかった思い出が次から次へと蘇ってくる。
しかし、それらの思い出を全て振り切り、覚悟を決める。
凛とした顔で敬礼をする僕に、無言で敬礼を返してくれる先輩達。

東京に来て数年経ちますが、山手線で新宿から鶯谷までの距離があんなに短く感じたことはなかったです。

鶯谷のラブホテルに到着し、選手を待つ。
気がつくとあり得ないペースでタバコを何本も吸っている。
そしてとうとうドアをノックする音が響く。敵国が戦場に到着。
部屋中が緊張感で張り詰める中、僕は恐る恐る扉を開けると、そこには強烈なインパクトを放つ女性が立っていた。

推測するに上から

120

120

120



極楽とんぼの山本さんがめちゃイケでよく披露していたキャラ、油谷さん。その油谷さんそっくりの女性が僕の目の前に立っている。

そしてその女性は言う。

「どうも~、バースで~す!!」


バースかぁ・・・


バースかぁ~・・・



バース・・・かぁ~・・・



『ランディ・バース』

野球ファンなら誰もが知っている、1985年の阪神タイガースの日本一に貢献し、その年の打撃三冠王にも輝いた間違いなく阪神史上最強のアメリカ人助っ人、バース。

そのバースがおよそ30年の時を経て、油谷さんとして姿形を変え僕の前に現れた。

70年前の敗戦国の劣等感が僕を支配する。
部屋に入るなり空調をガンガンに下げるバース。
極寒の部屋の中、覇気のない声で、

「宜しくお願いします…」

という僕。

「え?あたしの好きなミュージシャンにめっちゃ声似てるんだけど~!」

と言いながら早速服を脱ぎだすバース。
腕と胸に梵字のタトゥーがあしらわれているバース。
聞けば娘の名前を彫り、その娘もこないだ子供を産み、42歳ですでにおばあちゃんになったバース。

そして裸になったバースはベッドにでーんと仰向けで寝そべり、

「はい」

と僕に向かって言ってきた。
お前が責めろという最小文字数での意思表示だ。
なぜか僕の頭の中に昔市場で見たマグロの解体ショーの映像がフラッシュバックする。
ベッドに寝そべる巨大マグロ。
8千円で僕が競り落とした巨大マグロ。
目の前行って写真撮って寿司ざんまいに飾ってもらおかな。
そんなよく分からない雑念を振り切り、真剣に巨大マグロと対峙する。
この巨大マグロを見事に調理することこそが今回の戒めなのだと自分に言い聞かせ、僕は巨大マグロに挑んだ。



結果は惨敗。
巨大マグロを目の前にし、どこから責めていいかも分からず、気がつけば

「あのー、すいません…僕普段受け身なんで、バースさんが責めてもらってもいいですか?」

とか言ってる始末。

「あっ、そうなの? だからなんかぎこちない感じだったんだ?」

血がこぼれ落ちそうになるぐらい拳を握りしめる僕。

マグロ交代。

何の躊躇もなく僕に覆い被さってくるバース。
僕の体はどんどんアメリカ軍に支配されていく。
次々と領土を広げながら下へ下へと進んでいくアメリカ軍。
そしてとうとうアメリカ軍が僕の本丸まで辿り着き、一気に総口撃を仕掛けてきた!
しかし、総口撃を受けているはずの僕の本丸は一向に奮起しない。
僕は目を瞑り過去のエロかった映像を思い出したりもしたが、5分経っても10分経っても、竹やり部隊どころかふにゃっふにゃのまま。

ふと本丸付近を見ると、油谷さんが餅を啜っているようにしか見えない。
ダメだ! この画はインパクトが強すぎる! これを見てたらずっとにふにゃっふにゃのままだ!
僕は無料オプションにアイマスクがあることを思い出した。
これだ!!
アイマスクをすれば餅を啜る油谷さんを見なくて済む!
すぐさまアイマスクを注文する僕に対してバースが言う。

「え? アイマスク? もしかして変態さん?」

掌を指が貫通するぐらい強く拳を握りしめる僕。
しかしいざアイマスクをするものの、餅を啜る映像が脳裏から離れない。
八方塞がりとはまさにこのこと。
そんな膠着状態が続く中、バースがおもむろに鞄から出してきた起死回生のスーパーアイテム。

最強の近代兵器『ローション』

どんな戦争をも終結へと導くと言われる世紀の大発明、ローション。
過去の偉人の中で一番凄い発明をしたのは誰なのか?

ダイナマイトを開発したノーベル?

電話を発明したベル?

はたまた相対性理論を考えたアインシュタイン?

いやいや、ローションを開発したどこぞのエロい工場長が一番凄い!!

僕は胸を張ってそう言い切れる。
その近代兵器ローションを意のままに操り、僕の本丸に再び攻め込むバース。
さっきまでの冷戦状態が嘘だったかのように、僕はすぐさま白旗を揚げた。

ようやく戒め完了。
そう胸を撫で下ろしていた僕にバースから衝撃の一言が浴びせられる。

「まだ時間余ってるけど、2回戦する?」

僕は愕然とした。
何言ってんの?
今白旗揚げたばっかりやん?
白旗揚げた人間にさらに追い討ちをかけようとしてくるやん?
ほんまのアメリカでもそこまで残酷なことせえへんて。
今しがた戒めを完了して清々しい気持ちになってるとこに2回戦する?ってどんな神経してんねん…

…ん?

…2回戦?

……2回戦!?



あっ!!!!



目から鱗でした。
もう一人の僕が語りかけてくる。
森田、お前がここに来た本来の理由は何だ?
2回戦に落ちたからじゃないのか?
お前は戒め完了と思ってたかもしれないが、本当はまだ1回戦をクリアしただけじゃないのか?

僕は大きな間違いを犯していたことに気づきました。
このバースが与えてくれた2回戦をクリアすることこそが、真の戒めだと。

「お願いします!!!」

極寒だったはずの部屋の温度は一気に上昇し、僕は真の2回戦に突入しました。
もうそこからは、よりふにゃふにゃ、より餅、より油谷のオンパレード。
35歳という老体にバース相手の2回戦なんて自殺行為かもしれない。けれどやるしかない。
より大量の近代兵器を投入するバース。
最後の力を振り絞るが、思うように餅は膨らまず、なんとか半餅をキープするのが精一杯の僕。
餅とローションの激しいぶつかり合い。
誰一人得しない異空間。
火が起こってもおかしくないほどの摩擦がピークに達した時、ほんの少しだけ何かが出たような気がした!いや、出た!

「出ました! 出ました! 出ました!!!」

「え? 出た? ほんと?」

「…出ました」

辛くも2回戦通過。
本当に何かは出た。それがもしかしたら僕が思ってるそれではないかもしれないが、出たは出た。
れっきとした2回戦通過。

ベッドに横たわりピロートークを始めるバース。
その姿はまさに奈良の公式キャラクター、せんとくんそのもの。
しかし、この人のおかげで全て報われた気持ちになり、最後はちょっと愛おしくさえ感じ、

「やっぱり似てるのは声だけだったなー」

という意味不明の嫌味もさほど気にならなかった。
空調から発せられる凍てつく風も今では涼しく感じる。
僕は平城遷都1300年の偉大さに包まれた。

そしてバースという名前は、伝説の最強助っ人、ランディ・バースからとったのではなく、日本ハムファイターズに今年入団した、アンソニー・バースというそんなに大したことのない現役投手からとったという衝撃の事実。

「そこがミソなのよー」

と誇らしげに言うアンソニー・バース。
完全にスベっているアンソニー・バース。

「えー、絶対にあっちのバースやと思ってたー」

と、ほぼ無感情で返す僕。
再び極寒に戻る室内。
僕は早く帰りたいという衝動に駆られながらも、水面下で動いていた地獄のミッションを思い出した。

遡ること数時間前、実はお店に電話する前に先輩達とホームページを見ながら盛り上がっている時、お笑い界一の超サイケデリック女芸人、鳥居みゆき大先生がこうおっしゃった。

「“アンダーウェアお持ち帰り”っていうオプションが千円であるじゃん」

いわゆる女の子が履いていた下着を持ち帰れるオプション。

「あんたこのオプションつけなよ。それでその貰ったアンダーウェアを1年間肌身離さず持ち歩いて御守りにするのよ。で、1年後の2回戦の本番、それ履いて舞台でネタすんのよ。それで全て完結するから」

僕は爆笑しながら

「なんでなんすかー!」

とつっこんだ。
しかし、鳥居みゆき大先生の目は全く笑っていない。

「アホなことばっか言わんといてくださいよー!」

再びつっこむ僕。
さらに笑わない大先生。

マジか…

なんなんこの人…?

やらな殺すみたいな目で見てくるやん。

僕は渋々電話でアンダーウェアお持ち帰りのオプションを注文した。
そしてピロートークを終え、服が置いてある所に移動したバースはパンツを履いた瞬間に、

「あっ、そうか忘れてた!」

と言い、まだベッドにいる僕の方へパンツを放り投げ、あっさりミッションは完了。
これを読んだ方、来年の2回戦、必ず観に来てください。
どんな衣装を来ていようが、その下にはバースに貰ったギンガムチェックのLLサイズのパンツを履きながら僕はネタをしていますので。

そして、2度とこの店に来ないように死に物狂いで最高のネタを作ろうと誓った夜でした。