『ポプテピピック』ポプ子は本当に竹書房ビルを破壊できるか!? を科学的に検証してみた

マンガ

更新日:2018/8/15

『空想科学読本 滅びの呪文で自分が滅びる!』(著:柳田理科雄、イラスト:近藤ゆたか/角川文庫)

『ポプテピピック』が、筆者には全然わかりません!

 でも読者からはどんどん質問が届く。ベーコンムシャムシャくんとは何者ですか? サンバ師匠は、何に傷ついたのですか? 竹書房彦摩呂という人は実在するのですか?

 知らーん。質問の内容もわからーん。マンガを読んだら、さらに混乱した。深夜のアニメも見たけど、全然ついていけなかった。ポリスメーン!

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 そこでもう開き直って、科学的に気になるところだけ書くことにします。『ポプテピピック』にはいちばん合わないアプローチのような気もするけど、筆者にできるのはこれだけだー。

◆科学的に考えてみるぞい

 行頭の話数は、コミックス1~2巻の各4コマの上に記してあるナンバーなので、本を持ってる方は、照らし合わせながらお読みください。

1巻
2巻

[14話]壁ドンしたら、壁と床が抜けて、レールの上を走っていく! 物理的にあり得ない現象にビックリ。なぜなら、ピピ美の手は壁を前方に押しているけど、足は壁と一体になった床を後ろに押しているから。

[35話]ポプ子が「今日も元気だ セルライトが光る」と言うと、ピピ美が「セルライトは光らない」。セルライトは皮下脂肪が老化して、皮膚に凹凸ができたもの。光らん。

[143話]にきびケアの薬で、まさやんが溶けた。にきびケアの薬には、ビタミンC誘導体やイソプロピルメチルフェノールなどが含まれている。後者で溶けるとしたら、まさやんはニキビの原因となるアクネ菌だったことになる。

[196話]しゃっくり100回したら死ぬといい、ポプ子99回目で自爆。しゃっくりは横隔膜の痙攣だから100回でも死にません。それより自爆できるポプ子がすごい。

[261話]ボクサーが「もうだめだ!! タオルをなげてくれ!!」。タオルはポプ子が持ってて、ぐるぐる回して飛んでいく。タオルを回しても絶対に飛べないから、返してやれ。

[323話]ポプ子が「万有引力とは一体…」と考えていると、リンゴが木から落ちて、地面に立った鉛筆に刺さった。実験と計算で、落ちてきたリンゴ(使用したものは284g)が鉛筆(長さ15㎝、底面の対角線7.9㎜)に刺さり、描写どおり「貫通はするけれど、地面には届かない」落下高度を求めると、1.8~3.4m。おおっ、まさにリンゴが実る高さだ。『ポプテピピック』が科学的に正しい描写なんて、アタイ……ゆるせへんっ!!

◆竹書房を破壊するパンチ!

 最後に、読者からいちばんたくさんもらう質問。ポプ子vs竹書房だ!

 137話でポプ子は、竹書房の看板にマジックで「指定暴力団」と書き込んで警察に通報していた。それをやったら、捕まるのは絶対に自分だと思うが、それでも怒りは収まらなかったようで、155話では巨大になってパンチを振るい、ついに竹書房ビルを破壊した。これに費やしたエネルギーはどれほどなのか?

 飯田橋にそびえる竹書房ビルは、9階建て。高さは30mほどと見られる。地図で測定すると、間口は18m、奥行きは10m。このサイズのビルは、重量が1900tほどあり、爆破解体するにはダイナマイト1tが必要だ。

 この竹書房ビルと比べると、巨大化したポプ子の身長は45mくらい。もともとの彼女の体格を「身長150㎝、体重45㎏」と仮定すれば、相似拡大したポプ子の体重は1200tになっているはずだ。その場合、人間の体格から割り出すと、右腕の重量は60t。すごい体格だが、ダイナマイト1t分のパンチを放つとなると、右腕を時速1700㎞=マッハ1.4でぶち込まなけばならない! うーむ、なかなか手ごわいじゃないか、竹書房。

……と、ここまで書いた翌日、仕事で飯田橋に行ったところ、JRの駅に「竹書房」への案内板を発見した。「竹書房 500mくらい」というアバウトな表示にもビックリしたが、何より驚いたのは社名の下に『ポプテピピック』のイラストがあって、ポプ子が「竹書房!? 破壊したはずでは……」と言ってたこと。うははっ。マンガを読んでない人には、全然わからん案内板だ。

 ふーむ。こういうすごい出版社だからこそ、ああいうマンガが誕生したのだな。あーそーゆーことね、完全に理解した。

*本連載は『空想科学読本 滅びの呪文で自分が滅びる!』(角川文庫)に収録している原稿を一部短縮しています。

◆プロフィール
柳田理科雄
1961年鹿児島県種子島生まれ。東京大学理科Ⅰ類中退。96年、経営していた学習塾の赤字を埋めるために『空想科学読本』を執筆したところ、60万部のベストセラーに。だが、塾は潰れてしまい、99年空想科学研究所を設立して研究と執筆に専念。2007年、希望する全国の高校図書館に向けて「空想科学 図書館通信」の毎週無料配信を開始する。13年スタートの『ジュニア空想科学読本』(角川つばさ文庫)が小中学校でブームになるなど、読者層はいまなお拡大し、著書の総累計部数は500万部。明治大学理工学部非常勤講師も務める。

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空想科学研究所 Twitter:@KUSOLAB