「取次」に何が起こっているのか?――問われる電子時代の流通のあり方

ビジネス

2019/6/28

ジャーナリスト・まつもとあつし氏が、出版業界に転がるさまざまな問題、注目のニュースを深堀りする連載企画です!

日本の出版を支えてきた「取次」に訪れた危機

 日本出版販売グループ(日販)の2018年度決算が5月29日に発表された。それによると売上高は前年比5.8%のマイナス、純損失は2億円と19年ぶりの赤字となったことが明らかになった。日販はトーハンと並ぶ日本の出版流通大手であり、年商は5000億円を超えている。(これは出版最大手の集英社の約5倍の規模だ)。世界的に見ても独自と言われる日本の出版流通、それを支えてきた企業=取次に何が起こっているのだろうか?

 日販・トーハンは出版流通の7割以上のシェアを持っているとも言われる。2社だけでこれだけの流通を担っている例は世界でも珍しい。このような形になったのは、終戦直後のGHQがメディアコントロールを効率的に行うためだったともされるが、その政策によって取次の資本力は強大なものとなった。

 巨大な資本を持つ2社が流通を担うことによって、小さな出版社でも本を刊行でき、大小問わず全国の書店にそれが届けられる仕組みが生まれることになった。書店は本を買い取らなくとも委託という形で陳列することができ、売れなければ取次を介して返本することができる。出版社は多種多様な本を刊行し、取次に卸した時点で売上が立つ。本の価格は再販制度によって値引きが行われないため、この言わば「金融」にも似た仕組みは安定的に出版産業を支えてきたのだ。

 この流通構造に衝撃を与えたのが、通販大手Amazonのシェアの拡大とスマートフォンの普及に伴う雑誌販売の急激な低下だ。雑誌の流通に書籍も加え、それも書店の注文分だけでなく、おすすめの本もあわせて配本することで日本独自の流通網を築き上げてきた取次だが、この流通網を介さずとも雑誌・書籍で得ていた「情報」は私たちの手元に届くようになった。

求められる電子時代の新しい流通の形

 取次によって支えられてきた出版産業の形が大きく変わろうとしている。経営が悪化した取次は返品率を抑えるため書店への配本を慎重に行うようになった。その結果、小さな書店からは「注文したベストセラー本がなかなか希望の数量届かない」という声が聞こえてくるようになった。読みたい本がなければ書店から客足は遠のき、地方から書店がなくなっていく状況を加速することになる。

 出版社も以前のように、多種多様な本を刊行することが難しくなってきている。数年前には各社がこぞって新書レーベルを作り、毎月多くのタイトルを出版するブームがあったが、取次が取扱量を絞り込むなか、出版社は数よりも「ヒットする企画」に注力するようになってきている。

 書店も発注のあり方を見直しはじめている。Amazonは2019年1月末に試験的に買い切り制度を導入する方針を明らかにし、合意した出版社との直接取引をはじめるとされる。返品がなく、取引に対する手数料が生じないのは出版社には良いように見えるが、Amazonはこれまで以上に入荷を絞り込むことになり、出版社は企画への投資や書店に頼らないプロモーションにコストを掛けなければならないことも意味する。TSUTAYAも同様に、部分的に返品枠を残しつつも買い切り制度を導入することを発表している。

 取次がこれまでのビジネスモデルを維持できなくなる一方で、直販も可能な電子書籍プラットフォームや、書籍通販が存在感を増している。小さな出版社でも本を出せる、地方の書店も経営が成立するといった利点を生み出してきた取次だが、対症療法やこれまでの枠組みに囚われず、雑誌・書籍流通の新しいあり方を提示すべきタイミングに来ていると言えるだろう。

文=まつもとあつし