「セックスをつまらなくさせる “女性らしさ”の呪縛」『中高年のための性生活の知恵』⑨

恋愛・結婚

2019/7/14

セックスをつまらなくさせる “女性らしさ”の呪縛(荒木乳根子)

■「セックスは男性のもの」という女性の思い込み

 これまでに、女性がセックスを拒否する大きな理由として「セックスがつまらないから」というものがあるとお伝えしました。ところが、女性側の思い込みがセックスをつまらなくさせている側面があるとしたら──女性は自分でセックスレスの原因をつくっていることになります。

 そこで女性の方に質問ですが、「セックスは男性のためのものだ」と思っていないでしょうか?

「男性の欲求に応えるのが女性の役割」という刷り込みが、自分の中にないかどうか、一度自分に尋ねてみてほしいのです。

「女性は受け身で男性が求めるもの」という関係性は、どこで覚えたものでしょうか。アンケートでは、親や兄妹などから結婚に際して教えられた、家族関係から自然に学んだという人もいれば、学校や職場の先輩から教えられたという回答もありました。

 この刷り込みにおいてどこが問題なのかというと、セックスに対して「主体的に自分が楽しむ」という感覚が持てなくなるところです。

 すると、望んでいないセックスにも義務感から応じてしまったり、セックスを楽しむことに罪悪感を持ってしまったりすることから、女性も喜びを求めていい、女性も積極的に求めてもいいのだという気持ちに歯止めをかけてしまうのです。

■セックスに対して義務感を持たないために

 わたしたちは調査の中で、性に関する考え方も聞いてきました。その中で分かったのは、女性は年代が高くなるにつれて、「夫の求めに従うのは妻の心得だ」
という考えを持つ人が増えていく、ということでした。数字で見てみると、60代で約3割、70代では約4割が、夫の求めに従わなければならないと思っています。ちなみに、40代では16%です。

「女性から求めてはいけない」「女性は受け身でいなくてはいけない」「男性の望む通りにしなくてはいけない」という思い込みは、良いセックスにはつながりません。むしろ、セックスに対して「男の求めに我慢して応えるもの」「不快なだけで自分にとってイヤなもの」という感覚につながりかねないからです。それでは、愛情を持つ相手とのコミュニケーションが苦行になってしまいます。快感も表現していいし、恥ずかしいと思う必要はありません。

 84ページでお伝えしたように、言葉なしでも上手に伝えることは、さほど難しいことではありません。というよりも、自分から欲求を伝えないでいては、いいセックスになるわけがありません。逆に、本当に気乗りがしないときには正直に断って構わないわけです。そうしないと「嫌なときも我慢して耐えるもの」になってしまいます。

 もちろん男性だって、セックスを楽しむ女性を「嫌だ」「はしたない」とは思わない人がほとんどです。逆に、まったく反応のない女性の方が相手としてはつまらないし、物足りなく感じるでしょう。

 わたしたちは、おなかがすいたらご飯を食べますね。すいていないときは無理に食べたくありません。また、好きなものは食べるし、嫌いなものを無理に食べることはしません。セックスも、食欲と同じぐらい自由な欲求として捉えられたらいいと思います。

■かつてはオープンだった日本の性文化

 ここで、これまでお伝えしてきたような女性を縛る貞操概念はどこからやってきたのか? について、少しひもといてみましょう。

 そもそも日本は江戸時代以前にまでさかのぼると、性についてはおおらかで開放的な文化がありました。春画には、素晴らしく多様な性の在り方が描かれています。おそらく庶民の中には、描かれている内容よりも、もっと自由な性があったのではないでしょうか。

 一方で、同じ時代ではありますが、儒教がベースとなっている武家の文化では、主従関係や男女の位置付けがはっきりしており、性に対しても非常に厳格な考えが見られました。嫁入り前に貞操を失うなど、もっての外だったわけです。武士の妻の不義密通は即死刑だったほどです。

 身分によって大きく違っていた性に対する道徳観が、明治維新を迎えてから様変わりし始めました。武家文化が庶民にまで拡張していったのです。

 加えて、武家に負けないくらい厳格なキリスト教の性に対する考えが流布するようになりました。

 武家文化とキリスト教がダブルで広まり、明治以降の性道徳はかなり厳しいものとなりました。戦前までの厳格な道徳観は戦後も親から子へと受け継がれたことで、今の60代、70代以降の女性には「夫の求めに従うのは妻の心得だ」と考えるような文化が根強く残っているのです。

 実際、わたしは戦前を生きてきた母に育てられ、性的に厳しい道徳観を植え付けられました。今でも引きずっている部分があります。

 夫に従うべしという意識が大きく変わっていったのは、1980年代の男女雇用機会均等法の施行以降でしょうか。おそらく、今現在子育てをしている世代の女性には、上の世代が持つような性的に厳しい道徳観はさほどないでしょう。世代間で受け継いでいくものは、次第に薄れていきがちです。

 お子さんの前でも、夫婦が愛情あるハグをしていいと思います。両親が仲の良い姿を子どもに見せることは、子どもたちを安心させることにもなるでしょう。

 また、パートナーを得ること、家庭を持つことに対してポジティブなイメージを持つことにもつながります。

 親が性に対してどんな価値観を持っているか。どんな夫婦関係なのか。

 それは、次の世代へ多大な影響を与えます。古くてつまらない道徳観にとらわれるよりも、明るくてポジティブな性を積極的に楽しんでほしいと思います。

<第10回「肌と肌の触れ合いだけが伝え合えること」に続く>