仲良し家族が泥沼の「争族」に! 財産が少なくてもやっておくべきこと/『プロが教える 相続でモメないための本』④

暮らし

2020/1/23

相続争いは他人事と思っていませんか。「遺産が少ない」「家族はみんな仲がいい」「信頼している税理士がいる」1つでも当てはまる方、あなたは相続争いの当事者になりやすいタイプです。
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『プロが教える 相続でモメないための本』(江幡吉昭/アスコム)

いったい何が問題だったのか

 本来、遺言があれば、遺産分割協議書を相続人の間でまとめる必要がありません。法的効力のある遺言に従うしかないからです。そういう意味では、「ハンコを押す必要さえないので、ハンコ代も何もない」というのが良一さんの理屈ですが、「争族」は理屈で解決できないから問題なのです。

 また、このケースにおける最大の問題は、「お母さまの遺言が3姉妹の遺留分を侵害するものだった」という点につきるでしょう。

 3姉妹の不満は、法的に正当といえるのです。

 とは言え、今回お母さまが残した遺産は、現金をありったけ集めても約500万円。にもかかわらず、3姉妹全員が再び1000万円ずつのハンコ代を期待していた点は無理筋でした。

 3姉妹のうち長女は夫を亡くしており暮らし向きが厳しくなっていました。彼女は特に「2度目のハンコ代」をあてにしていたので、「争族」をこじらせる大きな要因になりました。

 つまり、登場人物全員が何らかの勝手な期待を抱いていた結果、皆が「こんなはずではなかった」という感情に至ってしまったことが「争族」につながったのです。

 最終的に、良一さんの手元に残っていたわずかなお金を3人の妹たちに支払うことで、なんとか問題を収めることができました。

 しかし、兄妹の間には消えることのない深い遺恨ができてしまったのです。

 お母さまも、「遺言を遺す」という判断は正しかったのですが、遺留分に関する知識が無かったために、結局はトラブルの種を自らまいた形になってしまいました。

 つまりこの「争族」は、本来なら避けられたはずだったと、私は考えます。

遺産が少なくても「争族」は起きてしまう

 良一さんのご家族は、お父さまが亡くなった際の一次相続では、円満に解決したのに、お母さまの二次相続では泥沼の「争族」に発展してしまいました。

 ここから、重要な事実がわかります。

 つまり、相続人となるお子さまたちの仲が良くても、お金に困っていなかったとしても、相続するべき財産がほとんどなくても、「争族」は起きる――ということです。

 亡くなったお母さまの昌代さんは、生前に遺産相続について銀行に相談し、銀行で公正証書遺言を作ったのでした。遺言の内容が全財産を長男に相続させるものだと知った銀行は、明らかに「争族」になる可能性が高いとわかっていましたが、適当にアドバイスしただけでそのまま逃げてしまったのでしょう。

 くどいようですが、遺産が少なくても「争族」は起こります。この事例に関して言えば、「3姉妹に渡すお金すらなくなっていた」という点が、エピソードの「争族」性をより強めています。ある意味、お金がないからこそもめてしまったともいえるのです。

 遺されたお子さまを「争族」に巻き込まないようにするには、どうしたらよいのかと、よく相談を受けますが、私のお答えはいつも同じです。

 それは良い遺言を書くこと。

 この一点に尽きます。

 実際に遺言が執行される場面で、子どもたちや親族たちがどのようなことを主張するか、具体的にイメージする必要があります。

 場合によってはその解決に必要なお金も遺産としてとっておくべきでしょう。

 どうしても誰かが不満を言うことが予想される場合には、「なぜこんな分割方法にしたのか」という、あなたの思いを、遺言の中でていねいに述べましょう。実はその言葉こそが「争族」防止の特効薬にもなるのです。

争族を避ける対策①
良い遺言を遺す

 今、日本では年間約137万人が亡くなっていますが、その中で「公正証書遺言」を遺した人は約11万人、「自筆証書遺言」を遺した人が約1万7000人なので(※)、約1割しか遺言を書いていないことになります。

 遺言がない場合、財産は民法で定められた「法定相続分」にのっとり分割することが求められます。しかし、たとえ法定相続分どおり分割しても、全員が満足する結果になることはありません。「争族」を防ぐには、遺された子どもたちがそれぞれ納得する分割方法を、被相続人となる親が生前に定めて遺言を書くことが最善の策といえます。

 遺言は、家族を持つすべての人にとってのエチケットだと、私は考えています。「うちの家族はもめない」はありえないと思ってください。

 相続人が一人っ子以外の方は、全員「争族」の可能性があると思って間違いありません。

争族を避けるポイント

①長子承継的な考え方に縛られることなく、納得のいく遺産分割をすること
②財産が少なくても必ず遺言を遺す
③遺言は正式な手順で作成、保存すること
④遺言内容に不満をもちそうな相続人にも、あえて幾ばくか(遺留分相当額)の財産が行き渡るように配慮する

(※)出典:司法統計 第2表 平成30年「遺言書の検認数」

<第5回に続く>