突然、兄が遺産を要求! 10年介護してきた弟は報われるのか…/『プロが教える 相続でモメないための本』⑦

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公開日:2020/1/26

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『プロが教える 相続でモメないための本』(江幡吉昭/アスコム)

【財産放棄を撤回】
「財産はいらない」と言っていた兄が手のひら返し! 10年介護してきた弟は報われるのか?

経営者として収入も多かった兄は、常々「財産はいらない」と言っていた。しかし、東日本大震災で人生設計が大きく崩れた結果、姉が亡くなったときに突如「財産を半分もらう権利がある」と言いだし、「争族」に発展――。

登場人物(年齢は相続発生時、被相続人とは亡くなった人)
被相続人 姉:千恵子(81歳、元私立有名大学教授、東京都在住)
相続人  兄:雄一郎(77歳、元個人事業主、大阪府在住)
     弟:誠二(75歳、元大手金融機関サラリーマン、定年退職者、東京都在住)
遺産
都内に戸建て自宅(約4000万円)、現預金6000万円

羽振りの良かった兄が豹変(ひょうへん)

「それは遺産をもらいたいっていう意味なの?」

 弟の誠二は思わず聞き返した。兄の雄一郎が発した言葉があまりにも意外だったからだ。

「当然だろ。俺は法定相続人なんだから、財産を半分もらう権利があるんだぞ」

 雄一郎は、誠二から視線をそらしながら不服そうに返答した。

「だって、前はいらないって言ってたよね。介護も手伝ってないから、財産は全部お前が相続すればいいって」

「覚えてないな。仮にそんな口約束してたとしても、いまさら何の効力もないだろ。それより俺は法律で認められた相続人なんだから、それがすべてだよ」

 これを聞いた誠二は完全に頭に血がのぼった。

「今さら何言ってんだよ。しかも、財産を半分よこせってどういうことだよ。俺たちがこの10年間、姉ちゃんの介護でどれだけ大変な思いをしたか、わかってないだろ。兄ちゃんは一度だって手伝いに来たことないし、援助だってしなかったのに。金だけよこせなんて通るかよ」

「法律で決まってるんだから仕方ないだろ。議論するだけ無駄だ。さっさと財産を処分して半分ずつ分けようぜ」

「ふざけるなよ! 俺は絶対認めないからな」

 血を分けた兄弟だからこそ引くに引けない「争族」は、こうしてはじまった――。

両親の死後、それぞれ成功していた3人の姉弟

 私の事務所を訪れた誠二さんは、ことのあらましを丁寧に説明してくれました。

「両親を早くに亡くしたため、身内は私と姉と兄の3人しかいません。姉は苦学の末、有名な私立大学の大学教授になりました。結婚には縁がなく生涯両親が遺してくれた都内の戸建て住宅に暮らしていました。大学の仕事が忙しくてお金を使う暇もなかったらしく、退職時点で現預金は6000万ほどあったようです。兄と姉は性格が似ているところがあり、小さいころからよくけんかしていて、大人になってからはほとんど絶縁状態でした。兄は大学卒業後、家を出たので、その後どういう経緯をたどったのか詳しくはわかりませんが、40代で独立して大阪でフランチャイズチェーンの店をはじめ、一時期は5店舗くらい経営していたようですね。当時はかなり羽振りが良かったので……」

「お兄さまが財産はいらないとおっしゃったのは、その羽振りが良かったころのお話ですね」

 私は「争族」の背景を知るために確認しました。

「はい。姉は70歳を過ぎてから体調を崩していて、ひとりでの生活が困難になっていました。そこで姉が亡くなる10年ほど前から私たち夫婦が同居して、彼女の介護をはじめたのです」

「そうでしたか、10年間も介護をされたのだとすると、ご苦労も多かったでしょうね」

 誠二さんの話によると、千恵子さんが要介護状態になってから2年後に雄一郎さんと会ったとき、彼はこう言ったそうです。

「俺は大阪に住んでるから手伝いに来られない。だから姉ちゃんのことはお前たち夫婦に任せるよ。その代わり、万が一の時は、実家もお金も全部お前が相続すればいい。俺は大阪で一財産を築いたし老後の準備もしているから、遺産は1円ももらう気はないよ」

 当時のお兄さまは、会社がうまくいっていたため余裕があり、本気でそう考えていたのでしょう。しかし、それから数年後、お兄さまの生活は一変してしまったのです――。

<第8回に続く>

この記事で紹介した書籍ほか

プロが教える  相続でモメないための本

著:
出版社:
アスコム
発売日:
ISBN:
9784776210672