「ラノベ定額読み放題」は浸透するのか? 鍵はメディアミックスとキュレーション

ライトノベル

2020/1/24

ジャーナリスト・まつもとあつし氏が、出版業界に転がるさまざまな問題、注目のニュースを深堀りする連載企画です!

 昨年12月3日にKADOKAWAが運営する電子書籍ストアBOOK☆WALKERで、「角川文庫・ラノベ読み放題」サービスが始まった。月額760円で1万冊以上が読み放題になるというもので、登録初月は無料となるキャンペーンが行われている。

 読み放題サービスは、2016年にAmazonがローンチしたKindle Unlimitedなど、すでに各電子書店の多くがスタートさせている。後発で、しかもジャンルを絞った形のこのサービスにはどういった意味や可能性があるのだろうか?

■ラノベでも進む電子書籍への移行

 最近「ラノベに以前ほどの勢いが無くなってきたのではないか」という声を聞くようになった。出版指標年報などの出版統計ではラノベの売り上げが2012年に284億円でピークを迎え2018年には166億円へと、2010年代半ばをピークに落ちているというのがその理由だ。

 しかし、この数字は紙の本を集計したもの で、ラノベの電子書籍の売上は2011年から2016年にかけて28.9%拡大している (ORICON調べ)。音楽や映像など他のコンテンツが辿ってきたのと同様に 、紙というパッケージ市場の減少を、電子(配信)が補えるまでには至っていない が、単純に「ラノベが衰退している」とは言えない。ラノベの人気はアニメ化などのメディアミックスが支えていることに加え、キャラクター文庫や新文芸など、ラノベとその他の作品の境界は低くなってきており、ラノベ「的」な作品の人気は衰えていない、というのが自然な見方だと言えるだろう。

2019年にアニメ映画が劇場公開された『HELLO WORLD』。
ノベライズ小説が集英社文庫・集英社みらい文庫から出版されている

 刊行されるラノベ作品の多くは、「小説家になろう」などのウェブ小説投稿サイトで人気を博したものだ。「異世界転生もの」といった特定ジャンルに人気が集中しており、作品供給が過剰ではないかという指摘もあるが、電子市場を見るとその勢いは衰えていない。ウェブ発で、ほとんどが無料でスマホなどで手軽に読むことができるウェブ小説投稿サイトが起点となって、商業出版、アニメ化などのメディアミックス展開をするというエコシステムは今も機能していると捉えるべきだろう。

■ジャンル特化型の定期購読の可能性と課題

 しかし書店店舗数が減少を続けていることもあり、ラノベに限らず紙の本は厳しい状況に置かれているのも事実だ。美麗な表紙・挿絵に彩られた、コンパクト・低単価・コンスタントな新刊発行といった売れ筋商品としてのラノベの存在感も、売り場である書店が減ってしまってはその魅力を活かすことができない。

 電子書店での展開では、紙のラノベが持っていたこれらの強みは活かしにくい。そこでマンガと同様にメディアミックスと連動した巻数を絞っての読み放題に注力するのは自然な流れだ。一方で、マンガと異なるのは電子=ネットという場に軸足を移すと前述のウェブ小説投稿サイトがライバルともなり得るという点だ。

 今回のBOOK☆WALKERによる読み放題サービスの開始は、メディアミックスタイトルから1万冊という旧作ライブラリへの誘導を図ることによって、商業ラノベというジャンルそのものの活性化を狙っていると見ることもできるだろう。定額読み放題の場に、豊富な(かつ出版の過程を経て洗練された)作品群があれば、玉石混淆のウェブ投稿小説サイトとは一線を画した地位を確保できるという狙いはないだろうか。

 とはいえ、そこには課題もありそうだ。現状、例えば「角川文庫・ラノベ読み放題」で提供されている作品は、Kindle Unlimitedでも同様に読み放題で提供されているものが多い。単に定額で多くの作品を読みたいというユーザーであれば、あえてBOOK☆WALKERを選ばなくても同様の結果を得ることができると思われても仕方がない。せっかくのライブラリを活かすには、特集(従来の紙の本でいうところの○○選書)といったキュレーションが欲しいところだ。

テレビアニメも好評だったカクヨムが出自の作品「慎重勇者」だが、BOOK☆WALKERだけでなくKindle Unlimitedでも2巻まで定額読み放題の対象になっている

 他の分野ではジャンル特化型の定額購読サービスで存在感を示しているものがある。アニソンに特化したANiUTa(アニュータ)はその一例で、様々なキュレーション=特集でユーザーに多様な音楽体験を提供し、Spotifyのような外資大手サービスとの差別化要因となっている。本の世界では伝統的に「選書」がその役割を果たしており、ウェブ小説投稿サイトでも投稿を促す目的で、特集(サイト内での露出強化)が頻繁に組まれている。電子書店サイトでも、Amazon Kindleのような巨大総合サービスにはないキュレーションにこそ差別化のヒントがあるはずだ。

文=まつもとあつし