アニメ業界は戦場!? 「にしー先生」が現場のリアルをぶちまける!/『アニメーターの仕事がわかる本』①

アニメ

公開日:2020/4/23

長時間労働で低賃金、パワハラ、作画崩壊とか怖いニュースが多すぎ…一体、どんな働き方をしているの? 社会問題にすら発展したアニメーターの働き方と現実を、人気作画監督・西位輝実の実体験と取材。アニメーターの世界を歩くための、ゆるくてシビアな業界入門書です。

『アニメーターの仕事がわかる本』(西位輝実、餅井アンナ/玄光社)

登場人物の紹介

もちい

アニメーターのお仕事にホワッとした憧れを抱いてはいるものの、近年アニメ業界から漏れ聞こえてくるブラックなニュースにやや怯え気味のオタク女子。

にしー先生

さすらいのアニメーター。「アニメ業界」という名の混沌の地からやってきた。夢見る若者たちにアニメーターの現実を容赦なく教えてくれる。

プロローグ

ここは東京・杉並のとある喫茶店。スマホの画面を見つめながら、女の子が1人ため息をついていた。

もちい:ううっ、楽しみにしてたアニメが「放映落ち」……。またこのパターンかぁ。ネットじゃ「作画崩壊」もしょっちゅうネタにされてるし、「労働環境がやばい」ってニュースもよく見るし、今のアニメ業界って大丈夫なのかなぁ……。

にしー先生:ふふふ……教えてあげようか?

もちい:うわー!? な、なにごと!?

にしー先生:おっと、急にごめんね~。その独り言、ちょっと人ごととは思えなくて。ついつい話しかけちゃった。

もちい:えっ、声に出てた!? うるさくしてすみませんー!

にしー先生:いやいや。ただのアニメ好きにしては深刻そうなトーンだったし、ひょっとしてアニメーターにでもなりたいの?

もちい:えーっと……はい。(なぜそれを知ってるの!?)

にしー先生:だけど、その道に進んでいいのかは迷い中ってところだね。

もちい:そんなことまで!? いや、ネットとかを見ると大変な世界だってよく書かれてるので……。正直怖いなーって。

にしー先生:なるほど。じゃあ、このさすらいのアニメーター「にしー」でよければ、アニメーターの仕事について詳しくお話するけど。

もちい:「にしー」さん……えっ? あの作品とかあの作品とかでお仕事されてて、Twitterで業界話をぶっちゃけたりしてる?

にしー先生:知っててくれたのは嬉しいけど、そういう認識なのか~。

もちい:ほ、本物だー! あ、私「もちい」っていいます! アニメーターのお仕事のこと、本当に聞いてもいいんですか?

にしー先生:もちろん。夢見る若者に、にしー先生が容赦なく現場のリアルをぶちまけてあげましょう! ちょっと過激かもしれないけど、後悔しないでね~?

もちい:(こ、後悔……?)はい! ぜひお願いします!

こうしてもちいは、偶然出会ったアニメーター・にしー先生にアニメ業界の実情を教えてもらうことに。その先に深すぎる闇が待ち受けていることを、彼女はまだ知らない……。

第1章 アニメーターの仕事

私はアニメーターになりたい!

もちい:にしー先生、これからしばらくの間お世話になります。アニメーターのお仕事のこと、色々教えてください!

にしー先生:(ううっ、キラキラした目がまぶしい)こちらこそよろしくね~。話を聞いていた感じ、もちいちゃんはアニメをよく見る方だよね?

もちい:恥ずかしながら、日常的に「今期何追ってる?」という会話が出てくる程度には嗜んでおります。

にしー先生:おやおや、それは結構なオタクですね~。

もちい:アニメを見るのも絵を描くのも好きなので「アニメーターになれたら素敵だな~」なんて思ってるんですけど……。でもネットを見てても流れてくるのは「低賃金・長時間労働は当たり前」みたいな怖いニュースばっかりだし。

にしー先生:そりゃあ不安にもなるよねぇ。「全然そんなことないよ、毎日大好きな絵が描けて暮らしも安定しててハッピーだよ」って言ってあげられたらいいんだけど。

もちい:あっ、それは言えないんですね。

にしー先生:んー、手ぶらで飛び込むにはちょっとデンジャラスな世界?
せめて「地図」と「武器」くらいは持っておかないと怖いなー、くらいの感じ?

もちい:めっちゃ戦場じゃないですかー!

にしー先生:まあまあ。だからこそ先生がこうして地図を広げにやってきたわけですし。アニメーター世界の一端を知って、挑戦するかしないかは君の自由だよ。

もちい:うーん、早くも不安になってきましたけど……頑張ってついていくことにします!

にしー先生:おっ、いいですね~。じゃあとりあえず、「アニメーターのお仕事とはなんぞや」ってところから始めてみよう!

もちい:よろしくお願いします!

アニメーターとは登場するキャラクターを生き生きと動かす仕事

にしー先生:まずはすっごく基本的なところから確認しようか。アニメーションがどういう仕組みで動いているかって、なんとなくわかる?

もちい:えっと、少しずつ変化する絵を何枚も重ねて、連続でこう、パラパラ~ってやると動いて見える、っていうことですよね。

にしー先生:そうそう! 原理としてはパラパラ漫画と同じだね。その少しずつ変化する絵を1枚1枚描いて、キャラクターに命を吹き込んでいくっていうのがアニメーターの仕事なんだ。

もちい:単純な仕組みがわかってても、普段見てるアニメが人の手で動かされてるんだって思うと、ちょっと信じられない気持ちです。

にしー先生:あはは、だよね~。

もちい:だって、止まってるはずの絵なのに、動くし踊るし戦うんですよ!? 私の推しが……。
完全に「生きてる」じゃないですか!

にしー先生:(なんのアニメを見てるんだろう……)キャラクターが活き活きと動いてくれたときは、アニメーターも「やったぜ!」って思ってるよ。アニメーションって、キャラクターの体を正しく動かせればいいってものでもないし、そもそも単純な動きであっても、人体の仕組みや物理的な法則を理解していないと難しいから。

もちい:ああっ、たしかに! 今ここで「ボールを投げる動作を描いてみて」って言われても、私には絶対無理です! 体のどこがどう動くのかも、ボールがどうやって飛んでいくのかもわからない。

にしー先生:そのうえで表情や動作のタイミング、演出なんかに工夫を加えて、より魅力的な映像にしないといけないんだ。こういうのを業界では「演技をさせる」って言うんだけど。

もちい:すごい技術だ……!
それに、にしー先生は「パラパラ漫画と同じ」って言いますけど、テレビとかでやってるアニメって30分くらいありますよね? あれを全部手作業でやるって、ものすごい枚数になりませんか!?

にしー先生:ふふふ。テレビアニメはCMの時間を抜いて24分。作品にもよるけど、だいたい4,500~7,000枚、多くて1万枚くらいの絵でできているんだ。よくよく考えるとびっくりするボリュームでしょ?

もちい:びっくりどころか、気が遠くなるような枚数です……。ものすごい技術と手間のうえに、あの24分はできてたんですね!

<第2回に続く>