アニメーターの大半がフリーランス! 自覚なきフリーランスの落とし穴とは…/『アニメーターの仕事がわかる本』⑧

アニメ

公開日:2020/4/30

長時間労働で低賃金、パワハラ、作画崩壊とか怖いニュースが多すぎ…一体、どんな働き方をしているの? 社会問題にすら発展したアニメーターの働き方と現実を、人気作画監督・西位輝実の実体験と取材。アニメーターの世界を歩くための、ゆるくてシビアな業界入門書です。

『アニメーターの仕事がわかる本』(西位輝実、餅井アンナ/玄光社)

「制作会社」と「スタジオ」で仕事の請け方が違う

もちい:えーっと、にしー先生。ずっと気になっていたんですけど、ちょくちょく並んで出てくる「制作会社」と「スタジオ」の違いって、結局何なんでしょう?

にしー先生:ざっくり言うと、制作会社は元請けで、スタジオはグロス会社、つまり下請けって感じかな。アニメーターとしての職歴は、基本的にはこのどちらかに所属するところがスタートになるはずだよ。

もちい:「元請けと下請け」ってことは、働く条件とかも違ったりするんですか?

にしー先生:うん。違いの1つとしてあるのは、ギャランティの差。制作会社は製作委員会から直接予算をもらっている立場だから、ギャランティがちょっと高め。スタジオは間で抜かれるお金があるから、制作会社と比べるともらえる額が少し下がるよ。
ただ制作会社にもスタジオにもそれぞれ違った特色があるから、どっちがいいかっていうのは人によると思う。

もちい:言われてみれば、一般の企業でも「大きくてお給料が高い会社」=「自分に合う会社」とは限らないですもんね。

にしー先生:そういうこと。たとえば制作会社の強みとして言えるのは、どういう作品を作っているのかがハッキリしていること。
「自分はこのシリーズが好きだから、この会社に入って携わりたい」「この会社はアクションに強いから自分の得意分野が活かせるな」みたいに、作品やジャンル単位でのアプローチができるよ。

もちい:おお、たしかに! 一視聴者として見ていても、看板になっている作品や、押し出しているジャンルがかなり明確につかめるような。

にしー先生:でも、色んな作品をやってみたい人にとっては「ジャンルが固まっている」っていうのはマイナスにもなりうるわけで、会社の仕組みも結構システマチックで、「やりたい仕事を選ぶ」というよりは「割り振られた仕事をやる」って感じだし、空気が合わないと窮屈に思えちゃうかも。異動とかも普通にあるしね。

もちい:本当に「会社!」って感じなんだなー。

にしー先生:スタジオの場合は、もっと雰囲気がアットホーム。一緒に働いている人たちとの繋がりもできやすくて、色々な制作会社から仕事を請け負っているから、作品もジャンルもバラエティに富んでいることが多いよ。
「自分はこれがやりたいです」っていうのも、わりと自由に選べる。もちろんスタジオにも色々あるから、そこはリサーチしていくしかないけどね。

もちい:ほうほう。小回りが利いて、繋がりが密、と。

にしー先生:「作品」よりも「人」ベースで選べる職場っていうのもあるかなぁ。「この人の近くで働きたい!」って思うアニメーターがいるんだったら、その人が所属しているスタジオを受けてみるのも方法の1つだよ。
上手い人、尊敬できる人の絵を間近で見るのって、すごく勉強になるんだよねー。制作会社より距離感も近いから、師匠と弟子みたいな形で面倒を見てもらえるケースもあるし。

もちい:雰囲気も仕事の振られ方もだいぶ違いますね。ううん、どっちが自分に合ってるんだろう。

自覚しよう! アニメーターの大半がフリーランス

にしー先生:さて、スタジオと制作会社の違いがわかったところで……どちらで働くにせよ、必ず最初に確認しておいてほしいことがあります!

もちい:な、なんでしょう?

にしー先生:それはズバリ「労働形態」のこと。つまり「自分は会社員なの? それともフリーランスなの?」って話だね。
すっごく初歩的なことに聞こえるかもしれないんだけど、実はこれが結構な落とし穴なんだ。

もちい:落とし穴? どういうことですか?

にしー先生:まず前提として、アニメーターとして仕事をしている人たちの、実に半数以上はフリーランス(個人事業主)です。

もちい:ほうほう、会社員ではないんだ。

にしー先生:そして、新人アニメーターの多くが「自分はフリーランスである」という事実に気がついていません!!

もちい:なぜ!!?

にしー先生:いやー、これは間違えちゃうのも仕方ないかなって思うんだよねー。実際は社員ではないにも関わらず、会社からの扱いがあまりに社員みたいだから。
まず、どこかの制作会社やスタジオで仕事をしたいなって思うでしょ。そうしたら実技試験を受けて、面接も受けて、晴れて合格したら「じゃあ明日から来てね」って言われる。
次の日、会社に行くと自分の机があって、そこで会社から渡された仕事をやって……。

もちい:えっ、それ社員じゃないですか。

にしー先生:そう思うでしょ!? でもね、よくよく考えてみると社員にしては保証されてないことが多すぎるの。
そもそも「明日から来てね」っていうのも口約束で、契約書とかも交わしてないし、福利厚生もないし、ボーナスもないし、会社によっては鉛筆やらの備品も自分で買わなきゃだし、給料日に明細を見ると自分のギャラからはマージンが抜かれているし……。

もちい:あれ? なんか色々とおかしい気がしてきたぞ。

にしー先生:それが、他の業界で正社員になったことがないと色々変でもわからなかったりするんだよねー。
実は私も30歳くらいになって税理士さんに指摘されるまで、自分がフリーランスと呼ばれる分類だということを知りませんでした!


もちい:なんと。

にしー先生:どこかに所属する形をとっていても、契約上は「正社員」でも「契約社員」でもなく「業務委託」になる人が大半のはずなんだ。だけど会社側もハッキリとは教えてくれないことが多いし、先輩に確認しようにも、その先輩が「自分は社員だ」って思い込んでいたりするケースもある。

もちい:そういうのって、普通は最初に確認されるべきところですよね? しかも先輩すら知らないって、一体どういうことなんでしょう……?

にしー先生:いやー、どういうことなんだろうねー。他の業界の人に話すとみんなビックリするんだよ。

もちい:そりゃあ、すると思いますよ。

自覚なきフリーランスの落とし穴

にしー先生:ごほん。まあ、それはさておき。フリーランスだから国民健康保険も国民年金も自分で払わなきゃいけないし、確定申告だってしないといけない。

もちい:「確定申告」! ううっ、聞くだけで頭が痛くなるワード!

にしー先生:いやいや。とくに新人の子なんかは「そんなに稼げてないし、いいや」ってスルーしがちなんだけど、稼げてないときほど申告はした方がいい!
なぜかというと、日本の税金システムは収入が少ないほど優遇されるようにできているから。人によっては結構な金額が戻ってくることもあるんだ。

もちい:でもそのあたりのことって、学校とかでも教えてくれないですよねー。いきなり「やらなきゃダメ」って言われても頭がフリーズしちゃいませんか?

にしー先生:そうだよね~。私も先輩に教えてもらったり、友人に頼んでなんとかしてきたけれど、ただお役所とか税務署関係の手続きは、窓口に行って「何が何だかまったくわかりませ~ん!」って言うと手取り足取り教えてもらえたりするから。苦手な人はとりあえず頭を空っぽにして泣きついてみるといいよ。

もちい:ごちゃごちゃになって放置しちゃうよりは、パッと相談に行っちゃった方が気が楽ですよね。

<第9回に続く>