炭治郎に見えた「隙の糸」とは…? 忍耐、我慢、努力の積み重ねで得られる“大きな武器”/『鬼滅の刃』流 強い自分のつくり方③

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公開日:2020/5/27

マンガ『鬼滅の刃』の炭治郎、禰豆子、善逸、伊之助が、どんどん強くなれるのはなぜか…。大切な人を守るため、敵を倒すため。思い通りにならないことがあっても、投げ出さずに立ち向かう。『鬼滅の刃』から学べる強い心のつくり方を、印象的なセリフとともにご紹介します!

『『鬼滅の刃』流 強い自分のつくり方』(井島由佳/アスコム)

積み重ねた先に見えてくる「隙の糸」とは?

 積み重ねることで得られるものは、磨かれた技術と強くなった心だけではありません。その経験があったからこそわかるようになる「特別な感覚」も身につきます。

 たとえば南米のアマゾンに住む先住民族には、私たちの常識では考えられない、人間離れした感覚を持っている人たちがいます。

 静まり返ったジャングルの中で目を閉じ、耳をすまし、獲物のいる方向を的確に言い当てたり、川の水面の様子や風の吹き具合から雨が降ることを予言したり……。

 これらの感覚は、一朝一夕に習得できる能力ではありません。

 積み重ねた経験から身についた、その人たちにしかわからない、まさに「特別な感覚」です。

 鱗滝から与えられた最終課題の大きな岩。これを斬ることに成功したとき、炭治郎はその要因について、心の中で次のように分析しています。

「俺が勝った理由 〝隙の糸〟の匂いがわかるようになったからだ」
(1巻 第6話「山ほどの手が」より)

 この〝隙の糸〟とは、相手の急所や弱点を意味する炭治郎ならではの表現で、実際には存在しない糸が見えるという独特の感覚のことを指します。鬼殺隊に入隊し、さまざまな鬼と戦うときも何度となく「隙の糸が見えた」という心の声が『鬼滅の刃』の作品内で描かれてきました。

 この隙の糸こそが、経験を積んだからこそ得られる感覚。

 いわば、炭治郎だけにある直観力です。

 心理学において人間の知能を説明するとき、「結晶性知能」と「流動性知能」の2つを示すことがあり、隙の糸のような感覚は結晶性知能と言えるでしょう。

 説明できないけれども出てくる答え。

 経験を積み重ねることで生まれてくる知恵。

 俗にいう、おばあちゃんの知恵袋。

 このように、問題を解決するためにこれまでの知識を応用させるものが結晶性知能で、学校での勉強やさまざまな経験、文化の影響を強く受けます。

 この知能は年齢を重ねることで増えるといわれ、いくつになっても維持することが可能だといわれています。

 一方の流動性知能とは、新しい環境や場面にすばやく適応していくことのできる知能で、情報を処理する力、計算する力、暗記する力などがこれに含まれます。この知能は年齢とともに衰えるといわれ、若者のほうが優れているとされます。

 作中で描かれている炭治郎は十代後半にも満たない若者ですが、厳しい鍛錬によって隙の糸という結晶性知能を向上させることができました。そして、この能力が、強力な鬼たちを次々に撃破していく大きな武器になります。

 炭治郎にとって禰豆子を人間に戻すことが最大の目的であり、鬼舞辻という〝ラスボス〟にたどり着くためには、降りかかってくるさまざまな問題(鬼)を解決していく(倒す)必要があります。

 隙の糸は、その名の通り問題解決の糸口。

 義勇や鱗滝に会うまでは持ち合わせていなかった感覚です。

 この隙の糸をめぐる一連のエピソードから得られる教訓は、忍耐、我慢、努力は決して無駄にならず、乗り越えた者にしかわからない「特別な感覚」、問題を解決する能力を身につけられるということです。

 たくさんの学びと経験などから発達していく結晶性知能は、高めれば高めるほど失敗は減り、ものごとがうまく運ぶようになります。強い自分をつくる大きな武器になるのです。

<第4回に続く>