外へ向きがちな気持ちを自分のお腹へ戻す。朝に飲む白湯が自分を整える/暮らしのなかに始まりと終わりをつくる③

暮らし

2020/5/25

暮らしの中に終わりと始まりをつくる

著:
出版社:
幻冬舎
発売日:

自粛で家に籠もりがちだからこそ“日々の暮らし”を大切にしたい。心身を保つ日々のちょっとした工夫や習慣を「暮らしのおへそ」「大人になったら、着たい服」の編集ディレクターにして“暮らし”にまつわる数々の著書を持つ一田憲子さんがご紹介します!

『暮らしの中に終わりと始まりをつくる』(一田憲子/幻冬舎)

白湯を飲んで、体の感度を上げる

 朝、仕事を始める前に、まずお湯を沸かして白湯を飲みます。これは、10年以上前に「マーマーマガジン」の服部みれいさんに教えてもらったこと。「コーヒーのシャワーを浴びないように、朝、体内をきれいにしてくれるのは、白湯なんです」という言葉に納得! その時、みれいさんは、こうも語ってくれました。「私自身はちっともすごい人じゃない。でも自然を味方につけて感度を上げて、それを伝える“いい管”になりたいなと思うんです」(「暮らしのおへそ」Vol.9)。この「いい管になる」という言葉に、私はしびれるほど感動しました。そうか、私自身が何者かにならなくても、何かを受け取る「管」になればいいんだ! 私ができることは、自分を大きくすることでなく、自分の内側にある「管」を磨くことなんだ……。

 そんな「管磨き」の第一歩として始めたのが、白湯を飲むことだったわけです。さっそくやってみると、それまで使っていたステンレスケトルで沸かしたお湯は、金属の嫌なにおいがしました。コーヒーや紅茶や緑茶を飲んでいた時には気づかなかったのに……。そこで、思い切って盛岡産の鉄瓶を買ってみました。予想通りこれで沸かしたお湯は無味無臭。スルスルと体の中に入っていきます。ふ~ふ~と息を吹きかけて、自分の中の「管」がきれいになっていく様子を想像しながら白湯を啜ります。イメージすることは、きっと頭と心と体に大きな作用をもたらすはずですから。

 取材に出かける時にも、友人と会う時にも、本を読む時にも、散歩する時にも、「フレッシュ」=「新鮮」でいたいなあと思います。初めて見たように、初めて聞いたように、すべてのことに向き合えれば、「心が震える」という反射神経がアップするような気がします。私にとって白湯を飲むことは、昨日の続きではなく、まっさらな気分で1日を迎えるための儀式なのかもしれません。

 若い頃、私はいいライターになりたくて、いい仕事がしたくて、誰かに認めてもらいたくてたまりませんでした。「私は、ここにいます。誰か見つけて!」と大きな声で言いたかった。でも、少しずつ経験を重ねるうちに、「大きな声」は大して役に立たないことがわかってきます。どんなに叫んだところで、人が評価してくれるのは、声の大きさではなく、そこにキラリと光る魅力があるかどうか。魅力というものは、外へ向かってアピールすることでなく、自分の内側で磨いて、育てて、輝かせるもの……。若い頃の私は、どちらへ向かって力を注げばいいのかがちっともわかっていなかったなあと思います。

 人の評価は、自分がコントロールすることはできません。自分の力が及ばない場所にあるものを「どうにかしたい」とヤキモキすると、どんどん疲れが溜まってきます。どこにあるかわからないものを探すより、目線を自分の足元に向け、できることをやるしかない。淡々とそれを続けた結果、乾いた大地に恵みの雨が降るように、木陰に風が吹くように、自然にやってくるご褒美が「評価」。そう理解できるまで、ずいぶん時間がかかってしまいました。

 朝、お風呂掃除を終えた後に、鉄瓶を火にかけます。蓋を開けて、10分ほど沸騰させてから白湯を飲みます。フーフーと息を吹きかけながら、つい外へ外へと向かいがちな気持ちを、自分のお腹の中へと戻す……。特別なことを何もしなくても、たったこれだけの習慣で、自分を整えることができるなら、なんてお手軽なんでしょう! 朝、ガス台の上でしゅんしゅんと沸く鉄瓶のお湯……。それは、1日を始めるにあたっての、私の地ならし作業の風景です。

<第4回に続く>

この記事で紹介した書籍ほか

暮らしの中に終わりと始まりをつくる

著:
出版社:
幻冬舎
発売日:
ISBN:
9784344036000