ヒーローはメタルか/メタルか?メタルじゃないか?②

エンタメ

公開日:2021/1/9

 “新しいメタルの誕生”をテーマに“BABYMETAL”というプロジェクトを立ち上げ、斬新なアイディアとブレること無き鋼鉄の魂で世界へと導いてきたプロデューサー・KOBAMETAL。そんな彼が世の中のあらゆる事象を“メタル”の視点で斬りまくる! “メタルか? メタルじゃないか?”。その答えの中に、常識を覆し、閉塞感を感じる日常を変えるヒントが見つけられるかもしれない!!

メタルか? メタルでないか?
Photo by Susumu Miyawaki(PROGRESS‐M)

 2021年もすでに始まって9日が経っているが
みなさん、お元気ですか?

 突然で恐縮なのだが――人間は誰しも生まれながらにマッチョなわけではない。あるとき思い立ち、研鑽を積んだ結果マッチョになるのだ。マッチョになりたい、そのマグマのようなエネルギーの源にはコンプレックスがある。弱い自分を鍛えたい、強くなりたい、モテたい……などなど。

 

 普段の自分と違う自分になりたい。そうした思いは、マッチョに限った話でなくとも誰もが願望として持つものだ。そのように現実世界の自分ではない“もう一人の自分”を求めることは、その方がむしろ普通なのでは?とワタクシなんかは思うわけである。

 

 人々がライブに非日常の場を求めて熱狂しに行くのもそうしたことの現れなのではないだろうか。日常から離れてしばし非日常でもう一人の自分を解放する、それは何よりの息抜きであるし、大袈裟に言うならば、生きる糧にもなる。

 某世界的に有名なネズミのキャラクターが出迎えてくれる夢の国で、大きな耳のカチューシャをつけてハジけるのも、そこが非日常空間であり、もう一人の自分が解放されまくっているからだ。しかし、ひとたび夢の国を離れて帰りの電車で耳をそっと外すときの切なさは、真冬のライブハウスでTシャツ一枚で暴れまくり、名も無きメタラー同志と至極のひと時を過ごした後に晒される容赦ない外気の冷たさに似ている。

 

 日常と非日常、理想と現実、正気と狂気。そのスイッチが入る瞬間にワタクシはメタルを感じるのである。人間というものが、かようにアンビバレンスな要素の狭間で揺れ動くのを宿命的に背負っているように、メタルというジャンルもまた、相反する要素を分かりやすく同胞しているのだ。ヘヴィで破壊的なサウンドでありながら、その音楽は緻密な構成でなければ成立し得ない。また、伝統的なメタルの様式美を厳しい戒律のように重んじ、時に排他的になる一方で、自らの音楽的進化のためには進んで新しいものを取り入れる傾向が見られる。

「変身」こそがメタルなのだ

 そこでふと思うのが、変身ヒーローはみんなメタル、ということだ。スーパーマン、バットマン、アイアンマン(名前が100%メタル!)などのアメコミ・ヒーローはもとより、仮面ライダー、ウルトラマン、タイガーマスクと、歴代のちびっ子の憧れのヒーローを挙げていけばキリがない。皆たいていは、普通の人間として普通の生活を送っている。そこへ悪が現れた瞬間、スーパーヒーローに変身するのだ。まさに、ディストーションのスイッチが押され、サウンド(日常)が激しく歪み、攻撃的なリフがこれでもかと襲いくる(必殺技)! そのカタルシスはまさにメタル!

 そう言えば、プロレスラーの入場曲でメタルがよく用いられるのもわかる気がする。とくに覆面レスラーや顔にペイントを施したレスラーはまさに変身しているわけだから。リングという非日常空間に上り、バトルを繰り広げる彼らのアンセムとしてメタルが機能するのは必然というわけだ。

 

 もし、今の環境、例えば会社や学校などが、自分にとってしっくりこないとか、行き詰まりを感じているという人は、もう一人の自分が羽ばたける舞台を見つけてみてはどうだろうか。今の時代、幸いにもインターネットのおかげで世界はどんどん近づいて繋がっている。目の前の世界だけが全てでは無い。

 もしかしたら、もうひとつの世界では、あなたはヒーローとして称賛される、そんなことも十分可能だ。現に、世に出て大活躍している多くの人はそうじゃないだろうか? 勉強ができなくたって野球がすごければプロ野球選手に、人とうまくコミュニケーションが取れなくても卓越した想像力で世間を唸らせるストーリーを書ける人は小説家にもなれる。そんな大それたことでなくとも何だっていい、エアギターでもなんでも良いのだ。

 ワタクシが言いたいのは、日常もひとつの舞台、また非日常もひとつの舞台。

 諸君はどちらの舞台を選んでも良いのだ。

 どんなに小さな舞台でもいいから、自分がヒーローに変身できる舞台を見つけてみようじゃないか。

 ワタクシの敬愛する聖飢魔IIのデーモン閣下が、人間姿の自分のことを「世を忍ぶ仮の姿」と表現するのは有名だ。あなたも、会社や学校にいる自分は世を忍ぶ仮の姿だと思えばいい。会社や学校が終わったら、週末になったら、メタルスイッチをグイと踏みこんで真の姿へと「へーんしん!」すればいいのだ。

 ということで、古今東西の変身ヒーローには脈々とメタルの魂が継承されている。そう、「変身」こそがメタルなのだ。

取材・文=谷岡正浩

メタルか? メタルでないか?
Illustration by ARIMETAL

<第3回に続く>

KOBAMETAL(コバメタル)〇プロデューサー、作詞家、作曲家。
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