恋か? 友情か? 走れメタル/メタルか?メタルじゃないか?⑨

エンタメ

公開日:2021/4/17

 “新しいメタルの誕生”をテーマに“BABYMETAL”というプロジェクトを立ち上げ、斬新なアイディアとブレること無き鋼鉄の魂で世界へと導いてきたプロデューサー・KOBAMETAL。そんな彼が世の中のあらゆる事象を“メタル”の視点で斬りまくる! “メタルか? メタルじゃないか?”。その答えの中に、常識を覆し、閉塞感を感じる日常を変えるヒントが見つけられるかもしれない!!

メタルか? メタルでないか?
Photo by Susumu Miyawaki(PROGRESS‐M)

 メタルとプロレスは相思相愛だ。

 鍛え抜かれたレスラーたちの鋼鉄ボディー、その肉体がリングの中でぶつかり合い、躍動するさまは、そのままヘヴィメタルという言葉が当てはまるほどのハマリっぷりだ。

 プロレスは入場する時から退場までが一連のエンタテインメントとして成立している。だから、レスラーの入場時に流れる音楽は非常に重要な要素なのである。その入場曲にメタルが使用される頻度が高く、歴代の名レスラーの名前や存在とともに入場曲も多くの人の記憶に残っている。

 

ブルーザー・ブロディ/『移民の歌』(レッド・ツェッペリン)
ロード・ウォリアーズ/『アイアン・マン』(ブラック・サバス)
ビッグバン・ベイダー/『アイズ・オブ・ザ・ワールド』(レインボー)
アジャコング/『ヘリオン』〜『エレクトリック・アイ』(ジューダス・プリースト)
蝶野正洋/『Crash〜戦慄〜』/ロイヤル・ハント

 

 と、ごく一部ではあるが、なかなか壮観なラインナップだ。ちなみに蝶野さんの『クラッシュ』という曲は、ロイヤル・ハントの『マーシャル・アーツ』が原曲だ。一説によると、オーソドックスなレスラースタイルから武闘派転向を模索してヨーロッパ武者修行の旅に出た蝶野さんが、デンマークのライブハウスで知り合ったロイヤル・ハントのアンドレ・アンダーセンに楽曲依頼をし、『マーシャル・アーツ』を提供された、という伝説がある。まさにメタルとプロレスの融合を物語るエピソードだ。

 さらに豆知識を披露すれば、1993年に『Heavy Metal Battle』という一枚のコンピレーションCDが、とある国内メジャーレーベルからリリースされている。帯には高らかに「闘魂!ヘヴィ・メタル・バトル」という文字が墨書きされ、その隣にはなんと、この2人の名前が記されている。「伊藤政則+酒井 康(BURRN!)認定」。言わずと知れたメタル・ジャーナリストの二代巨頭だ。全15曲、珠玉のメタルソングが獣神サンダー・ライガーやグレート・ムタの秘蔵写真とともに楽しめる素敵な一枚となっている。

メタルもプロレスも、即答で友情を取る

 このように、メタルとプロレスの蜜月は長い歴史を経て今に至っているわけであるが、そこには、見た目やバトルだけではない、精神性に根ざした部分があるからこそ両者の親和性がより強固になったという側面がある。

 プロレスファンにしろメタルファンにしろ、みんながみんなマッチョではない。むしろ、マッチョとは無縁の、どちらかと言えばクラスの隅っこにいそうなオタク系の人たちに熱烈なファンが多い。

 おそらく、現実とは異なる強い自分を屈強なレスラーに、そして激しいメタルサウンドに、投影するのではないだろうか。どれだけ追い詰められてもカウント2・9で返し続け、最後の最後でフィニッシュ・ホールドを決める! そのカタルシスに酔うのである。

 タッグマッチともなれば、その興奮はさらなる頂点へと達する。仲間のピンチに身を呈して助けに行くその姿の神々しいまでの純粋さ。そこに理想を重ねるのである。もしかしたら普段鬱屈した思いを抱えている人たちにとって、プロレスが描き出す、わかりやすいまでの対決構図は、心に染み渡りやすいのかもしれない。そこに不屈の精神を歌い上げるメタルがテーマ曲として用いられるのはもはや必然だ。

 

 恋か? 友情か? どっちを取るんだ!

 メタルもプロレスも、即答で友情を取る。色恋の手前で繰り広げられる、そんな朴訥さがワタクシには痛いほどに愛おしい。

メタルか? メタルでないか?
Illustration by ARIMETAL

<第10回に続く>

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KOBAMETAL(コバメタル)〇プロデューサー、作詞家、作曲家。
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