特別な場所だった、図書室の記憶。「ビターな日常」を楽しもう。『本と鍵の季節』/佐藤日向の#砂糖図書館㉓

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公開日:2021/8/7

佐藤日向

子どもの頃、父が転勤族だった私は、新しい土地の図書館を探したり、新しい学校に行くたびに図書室を見るのが楽しみだった。
図書室には、管理する人の個性が表れると思う。
まだ会ったことのない管理者の好みの作品や、その人が利用者とコミュニケーションを取って仕入れた本が図書室の歴史を作っているようで、私は大好きだ。

今回紹介するのは、米澤 穂信さんの『本と鍵の季節』という作品。
本作は図書委員の男子高校生2人が、タイトル通り「本」と「鍵」を用いて日常の謎を解いていく、ミステリーの連作短編集だ。

米澤さんといえば「〈古典部〉シリーズ」の印象が強いが、古典部シリーズを”青春”ととらえるなら、『本と鍵の季節』では男子高校生2人が織りなす青春の中にある”ビターな日常”が描かれている。

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この物語に登場する2人は探偵役と助手役ではなく、ともに違う考え方を持った探偵役だからこそ、各々の推理をラストに擦り合わせ、物語の終幕を迎えるのが面白い。

普段読む本のジャンルや育った環境によって自分が持つ常識も変わるが、それぞれの考えを否定から入らずに「なるほど」と受け入れることが大切なのだと、この2人を見ていて感じた。

本作は、2人が章ごとに事件を解決する構成のためかなり読みやすいのだが、物語が後半になるにつれてダークな雰囲気が流れ始め、作中で問題自体は解決していても、なんとも言えないモヤモヤが読み手の心に残る。彼らの活動拠点は「図書室」なのだが、図書室というのは不思議で特別な場所だと、大人になった今、改めて感じる。

学生の頃は図書室があるおかげで、本が読みたいと思えば手軽に本を借りられて、普段読んだことのない作品に触れることが出来た。学校内でひとつの作品が流行して、名前を書いて貸し出しを待っていたのも懐かしい。

私が通っていた学校では、朝の読書の時間が設けられていて、毎日決まった時間に本を読む習慣があったが、まわりが読書を面倒くさがる中、私にとっては物語の世界に浸れる大切な時間だった。

図書室で本好きの友人を見つけることは叶わなかったが、本作を読むと、学生時代に人気のない図書室で何でもない言葉を交わせる友人が欲しかった、と思ってしまう。そう思ってしまうのはきっと、作中で描かれてる2人の会話の雰囲気が独特だからだと思う。仲が良いからこそできる、なんて事のない会話や、急に話が脱線して、そこから推理の擦り合わせになっていく展開が今まで読んだことのない心地よさで、自然と本のページを捲っていた。

図書室に馴染みのある学生時代を送った人、少しビターな青春を楽しみたい人には、是非本作の謎解きに参加してみてほしい。

さとう・ひなた
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして、メジャーデビュー。2014年3月に卒業後、声優としての活動をスタート。TVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)のほか、映像、舞台でも活躍中。

公式Twitter:@satohina1223
公式Instagram:sato._.hinata
レギュラー配信番組『佐藤さん家の日向ちゃん』:https://ch.nicovideo.jp/createvoice