SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第3回「触りたくないもの」
公開日:2021/9/27
私は思う、このバーは用途を濫用して親切なふりをしているだけだと。人助けを掲げ、背に腹はかえられずに掴んでしまったその人の顔を見て嘲笑っているのだ。
真実を知らずに何の疑いもなくまんまとバーを掴む男には、ご多分に洩れずやってやったとほくそ笑み、真実を知っていて尚、抗えぬ状況に屈してしまった男には、屈辱を増長させるような甲高い笑い声を浴びせる。
だから例え大きく傾いた車内、真っ最中であったとしても私は、みだりな力に組み伏せられるくらいならば小便を撒き散らしながら派手に転倒した方がましだと考える。屈辱に耐えながら背中を小さくして席に戻るより、いっそ濡れ散らかして肩で風を切って大股で席に戻りたい。
そもそも無ければよかったのではないだろうか。
わかっている、必要なのだということは。かなり偏った個人的な意見であるし、揺れたら危ないのだからその時は掴まなければいけない。しかし、「でも」とか、「だって」が頭の中を行ったり来たりするのだ。
そんなことを思案する度、そして今この瞬間も、どこかを猛スピードで走る車内からバーは私に訊ねる。「じゃア、俺に代わる案を出せるのか? 揺れる車内で危険に晒された男を、お前は他の術で救うことが出来るってのか?」
情けない話だが、一つも浮かんでこない。雑多に詰め込んだ一つしかない引き出しの、一番手前から出してきたような「危ないからバーをつけよう」というアイデアに代わるものが見つけられない。
今欲しいものは誰をも納得させられる打開策を捻り出せる頭、そしてそれより、揺れる車内で四の五の言わずに堂々と立っていられる体幹だ。

しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。2025年4月に結成20周年を迎え、SUPER BEAVER 自主企画「現場至上主義 2025」を4月5日、6日にさいたまスーパーアリーナで行い、さらに、6月20日、21日に自身最大規模となるZOZOマリンスタジアムにてライブを行うことが決定。
自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中