夜道で手を振る気味の悪い少年、ホテルの壁を這う能面の女……身近に潜む恐怖をまとめた『不安の種』
公開日:2018/8/29
「ねぇ、こんな怖い話知ってる?」。このように、誰にだって怖い話を語り合った経験はあるだろう。5分ほどで話し終えてしまうような短い恐怖譚は、それだけで怖い気分に浸ることができ、夏の夜をひんやりさせるにはぴったりだ。
そんな恐ろしいショートストーリーを集めた作品が、『不安の種』『不安の種+』(いずれも、中山昌亮/秋田書店)である。
オムニバス形式でホラーが描かれる本作には、数分で読めてしまう話がたっぷりと収録されている。夜道で手を振る気味の悪い少年、ホテルの壁を這う能面の女、郵便受けから顔を覗かせる黒い影……。どれも短いエピソードだが、鳥肌が立つほど恐ろしい。学校や病院、アパート、帰り道など、身近な場所が舞台になっているのも相まって、読み進めると背中に嫌な汗が滲んでくる。
しかも、本作の怖いところは、各エピソードに「年代と場所」が添えられているところだ。「平成14年4月 新宿」「2003.杉並区」など、具体的な日時と場所が書き加えられることで、その恐怖が一気に身近なものへと変貌する。友人が語りかけてくるように、本作のホラーエピソードは実感を伴いながら忍び寄ってくるのだ。
また、中には「場所は伏す」と、どこで起きたのかがわからないようにぼかされているエピソードもある。それは「オチョナンさん」という怪異についてのエピソード。基本的にすべての話には具体的な日時と地名が表記されているにもかかわらず、「オチョナンさん」に関するものだけは徹底して「場所は伏す」とされる。
こうして隠されてしまうと、どうしても知りたくなってしまうのが人の常。オチョナンさんとは一体なんなのか、それはどこで起こった怪異なのか、遭遇した人たちはどうなってしまったのか。しかし、それが敢えて伏せられているということは……?
怖いもの見たさ、という言葉があるように、怪談は好奇心をくすぐる。ただし、度が過ぎた好奇心は、身を滅ぼすこともある。それを踏まえると、オチョナンさんについてはあまり深入りしてはいけないのかもしれない。「場所は伏す」。これは作者・中山昌亮さんがギリギリのところで出した“危険信号”なのだろうから。
文=五十嵐 大
この記事で紹介した書籍ほか

不安の種 (1) (ACW champion)
- 著:
- 中山 昌亮
- 出版社:
- 秋田書店
- 発売日:
- 2004/06/24
- ISBN:
- 9784253104869

不安の種+ 1 (少年チャンピオン・コミックス)
- 著:
- 中山 昌亮
- 出版社:
- 秋田書店
- 発売日:
- 2007/07/06
- ISBN:
- 9784253203876
特集「ホラー漫画」カテゴリーの最新記事
今月のダ・ヴィンチ
ダ・ヴィンチ 2021年2月号 美少女戦士セーラームーン/島本理生特集
特集1 わたしたちのセーラームーンが劇場に帰ってきた! 「美少女戦士セーラームーン」/特集2 作家生活20周年 島本理生の祈り 他...
2021年1月6日発売 定価 700円
人気記事
-
1
目が合っただけでドキドキする…。動揺をごまかすように「これほしい」とハルが指さしたのは…?/夫がいても誰かを好きになっていいですか?㊹
-
2
後藤さんに触ってほしい…。キレイだと褒められたハルは「触ってみます?」と尋ね…/夫がいても誰かを好きになっていいですか?㊸
-
3
-
4
-
5
人気記事をもっとみる
出版社・ストアのオススメ
文藝春秋
家で一人が幸せの真実。「おひとりさま」第一人者に学ぶ、死生観と家族問題
ポプラ社
妻がマルチ商法にハマって家庭崩壊した話。夫でも止められない洗脳を解く難しさ
双葉社
青いアザを持つ女子高生と人の顔がわからない教師の恋の行方は――!? “事情”を抱える者たちの葛藤に目が離せない最新巻!
白泉社
特装版はニャンコ先生のかわいいフィギュア付き!『夏目友人帳』26巻に「最高に癒されます」と反響続出
主婦の友社
ペットが生きているうちにこそ読みたい! 看取り、葬儀、供養…飼い主だからこそしてあげられる「ペットの終活」
楽天Kobo
楽天Kobo年間総合ランキングが発表! 1位は社会現象にもなっているアノ作品
ブックラブ
「ようやく本が出たんだなという実感を持つことができました」森見登美彦氏が登場! ブックラブ読書会レポート