うずまき状になって死んだ父、ねじれて絡み合うカップル…“うずまき”に呪われた街を描いた、伊藤潤二の代表作

マンガ

更新日:2018/11/5

『うずまき』(伊藤潤二/小学館)

 ホラーマンガ界の巨匠である伊藤潤二さん。代表作とされる『富江』の他にも、理不尽なホラー世界をたくさん生み出されている。そんな伊藤さんの作品のなかで、『富江』に匹敵する名作だと思うのが、『うずまき』(小学館)だ。

 本作は、黒渦町に住む女子高生・五島桐絵とその恋人である斎藤秀一を中心に、そこで起こる禍々しいできごとを描いた連作短編集。そのモチーフとなっているのが「うずまき」である。

 樽のなかでうずまき状になって死んでしまった父親、うずまき状にねじれて絡み合うカップル、突然うずを巻き始めた少女たちの髪の毛……。いずれのエピソードでも、伊藤先生が「うずまき」を料理し、ホラー調に仕立てている。

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 なかでも特筆すべきは、「ヒトマイマイ」の存在だ。これは文字通り、マイマイ(カタツムリ)になってしまった人間のこと。街の呪いによってうずまき状の殻が背中にできてしまった人間は、次第に理性を失い、マイマイのような軟体動物になってしまう。その描写が目を背けたくなるほどグロテスクで、ネット上でもそれを話題にする人が後を絶たない。まさに「富江」に次ぐ、名(?)化物の誕生である。

 そんなうずまきの呪いに蝕まれてしまった黒渦町は、少しずつ崩壊していく。もちろん、桐絵と秀一もその流れから逃れることはできない。逆らうことのできない運命に囚われてしまったふたりは可哀想でもあり、物語が収束していくラストシーンはある種の美しさをたたえている。それを成立させているのは、伊藤先生の筆力あってこそ。繊細な筆で、人物のみならず化物さえも美しく描いてしまう、その手腕に脱帽だ。

 ちなみに、本作は2000年に実写映画化もされている。いくつかのエピソードがカットされているものの、原作の再現度はなかなか。伊藤先生ワールド全開の本作、マンガと映画の両方で味わってみてもらいたい。

文=五十嵐 大