『ごちうさ』『桜Trick』 きらら編集長に聞く“日常系”の人気の秘密とは?
更新日:2014/6/6
これらの作品は、カワイイ女の子たちの、キャッキャウフフとした、何気ない日常が、まったりと描かれており、ショートア二メから30分アニメまで、すでにアニメのひとつのジャンルとして確立している。
これら“日常系”作品の魅力とはなにか? 過去から現在まで、『ひだまりスケッチ』や『けいおん!』など、人気アニメの原作を排出し、多数のファンを獲得している『まんがタイムきらら』の編集長に日常系の魅力を伺った。
▲可愛い世界観が人気の『ご注文はうさぎですか?』
■ “日常系”に潜む“リアル”
「『萌え系4コマ』と称されることがありますが、私たちが扱う作品は、魅力的な女の子の軽妙な日常です」とは、『まんがタイムきらら』の小林宏之氏。“日常系”の第一線をリードする人気誌の編集長である。
アニメ化された数々の名作を生み出してきた『まんがタイムきらら』とその姉妹誌は、カワイク等身大の女の子たちが描かれている。
扱う作品のほとんどは、なぜ日常生活なのか。もっと色々なテーマがある気がするのだが……。
「日常とは、人によって捉え方はそれぞれです。僕が思うに、SF空間にも『日常』は存在します。
大切なのはその日常の中に、読者にとって人ごとではない何かを持っている作品かどうかということです。マンガはフィクションです。しかし、読者の日常と何かしらの接点を作ることができたとき、キャラやストーリーにリアリティや魅力を感じさせる真の日常系と呼べる作品になり得るのだと思います」(小林氏、以下同)
「接点」とは、いかに? 『桜Trick』の百合ワールドなどはファンの日常とあまり関係がなさそうだが……。
「テーマやキャラクターなど、接点となり得る要素は様々ですが、学校という舞台設定も接点のひとつです。多くの人が経験する学校生活を丁寧に描くことで、読者の共感は得られます。そこを接点として、読者の興味や理想を具現化していくのです」
▲『まんがタイムきらら』グループ誌には、『まんがタイムきららMAX』『まんがタイムきららキャラット』など計6誌がレギュラー刊行
■ 安心感がキーワード
なるほど、だれでも送ったことのある「日常」生活とは、読者との接点をより多く持つということか。確かに百合体験は男子にはないが、キャッキャとしている女子を横目に見たことはある。しかし、なぜまったりとしたトーンなのだろうか。
「これは4コマというマンガのスタイルとも関係します。4コママンガとは、老若男女に通じる笑いを描きます。たった4コマですが、そのなかに軽妙な笑いとストーリーを落とし込むことができる独特な表現手段です。
もちろん4コママンガのなかには、感情を激しく揺さぶられるドラマチックな作品もあります。しかし、4コマというスタイルの特性により、過度な表現を抑制し、笑いをベースとした独自の空気を作り出すことが出来るのです」
『まんがタイムきらら』は、ファミリー向け雑誌『まんがタイム』の増刊として派生した。そのため、親雑誌から引き継ぐ4コマという強みを最大限に生かそうと試みたという。
さらに時代背景も、「ゆるい日常」を後押ししているという。
「社会に目を向けると、厳しいことがたくさんありますよね。“きらら”として、それをマンガでも積極的に描く必要はあるのだろうかと私は思います。
私たちは日常に潜む人の温かみを描くよう注力しています。特に、だれかがだれかを思う気持ちは、普遍だと思います」
▲アニメ化もされた『桜Trick』では、一歩進んだ“仲良し”が描かれている
■ 「桜Trick」のキスも理由があった
日々の営みのなかで触れる人の温かみ。気持ちがホッコリするような「日常」こそ、“日常系”作品の要となるのだ。
読者に安心感やほのかな喜びをもたらすという特徴は『桜Trick』にも見られる。
「『桜Trick』では、キスシーンが出てきます。それまで、私たちは“百合的な要素”を盛り込んだ作品も作って来ました。でもそれは、『仲良し』であることの表現のひとつであり、実際の肉体的な接触はさほど描いてきませんでした。
しかし、タチ先生にしか描けない“新しいきらら作品を”と考えた場合、キスだったんです。先生の描くキスには、刺激とともに安心感が得られると思いませんか?」
確かに普通のマンガでキスシーンが出てくると、若干気分が高揚してしまう。だが、春香と優のキスは、微笑ましく思える。
そこまで計算されていたとは! なんと奥の深い“日常系”の世界!!
▲今期のアニメのなかでも最上級にカワイイ女の子を描いた『ご注文はうさぎですか?』
■ 『ごちうさ』は可愛いだけじゃない?
さらに、現在放送中の『ご注文はうさぎですか?』の魅力をおしえていただいた。
「コミックスの帯に『すべてがかわいい』と書いてありますが、そのとおりです。
一見西洋風な世界なのに、和服を着た女の子も登場している。それなのに、画面にハレーションを起こさない。それはKoi先生の美学が作品世界の隅々まで徹底されている故です。
またマスターやティッピーという異質な存在もあります。これらのキャラが入るからこそ、女の子たちの魅力がより際立って見えるんです」
なるほど魅力的なキャラとは、絵の上手い下手だけではないのか。人を惹きつける個性とそれを引き立てる世界観がないといけない。
う~む、ますます奥深く思えてきたぞ。“日常系”の世界!!
後半では、さらに“ヒットする日常系”作品について語ってくれた。『けいおん!』『きんモザ』の秘密とは……?
<後半に続く>
■ アニメ化など最新情報は公式HPへ
「まんがタイムきららweb」
http://www.dokidokivisual.com/
<取材協力>
・芳文社
http://houbunsha.co.jp/
取材・文=武藤徉子