2007年10月号 『ぼくらの』1〜7巻 鬼頭莫宏

今月のプラチナ本

更新日:2013/9/13

ぼくらの 1 (IKKI COMIX)

ハード : 発売元 : 小学館
ジャンル:コミック 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:鬼頭莫宏 価格:607円

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今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

2007年9月6日

『ぼくらの』1〜7巻

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鬼頭莫宏
小学館 IKKI COMIX 各590円

 夏休み、自然学校で海に来た15人の少年少女は、ココペリと名乗る謎の男に出会う。彼に“巨大ロボットを操って敵を倒すゲーム”に誘われた子供たちは、小4の可奈を除いて、中1 の14 人全員が“契約”する。だが、そのゲームは単なる遊びではなく、文字通り「命をかけて」地球を守るための戦いだった。
 彼らは、戦闘を重ねるにつれ、戦いの真の意味を知ることになる。敵の正体とは。“勝つ”ことは何を意味するのか。巻数を追うごとに徐々に暴かれる真相、そして主人公たちそれぞれの背負った境遇。戦いの意味を知った上で決意する彼等と「ぼくらの」地球のあり方が描き出される。『月刊IKKI』(小学館)に連載中。

撮影/川口宗道
 
 

  

きとう・もひろ●1966年、愛知県生まれ。95年、『ヴァンデミエールの翼』でマンガ家デビュー。他の作品に『なるたる』全12巻、『殻都市の夢』、『残暑—鬼頭莫宏短編集』など。『ぼくらの』を『月刊IKKI』2004年1月号より連載。


横里 隆
(本誌編集長。映画『アヒルと鴨のコインロッカー』がよかった。ここ数年観た邦画の中でいちばんよかった。何度も観て、何度も胸が締め付けられた)

ぼくらの命×みんなの命
ぼくらの幸い×みんなの幸い

油断していた。少年少女ロボット漫画だと思って読み始めたが、巻を追うごとに油断していたことを思い知らされた。そして6巻で衝撃を受ける破目になる。自らの命を奉げることで巨大ロボットを操縦する子供たち。それは、たとえ敵を倒しても命が燃え尽きることを意味する。一方で戦いを放棄しても負けても、この地球は滅亡する。どちらにしても待つのは死。ただ、己の命を失う代わりに愛する人々を守ることはできる。究極の選択のようでいて、実は選択の余地はない。これはまるで悲惨な戦場に赴く兵士を説き伏せるレトリックだ。物語は戦争漫画の様相を見せ、しかし同時に中学一年生の子供たちの日常が丹念に描かれる。大きな戦争の渦の中で、彼らは家族関係や友人関係に悩み、小さくて切実な願いを握り締める。それはあたかも『中学生日記』のよう。驚くべきことに、優れたSFファンタジーと悲惨な戦争と中学生日記の要素が同時に成立しているのだ。その妙味に圧倒され、突きつけられる。ぼくらの生きる意味(無意味)を。ぼくらの戦う理由を。ぼくらの生まれてきたわけを。そしてぼくらの死の向こうにある茫漠たる未来を——。


稲子美砂

(本誌副編集長。主にミステリー、エンターテインメント系を担当)

フィクションの中の
圧倒的なリアル

考え抜かれた巧みな構成で、全然先が読めない。契約してしまった少年少女が次々と巨大ロボットの操縦者となり、敵のロボットを迎え撃つという大筋は変わらぬものの、その戦いごとに作者はさまざまな問いを読者に提示する。中学生という日常を生きる子供たちは、それぞれの環境の中でどのように自分の死を受け入れ、戦う決意に行き着くのか。子供たちの内面の変化や親兄弟友人との関係を描くだけでなく、国防軍の介入、ことが公になった際のマスコミ、大衆の反応など、だんだんと彼らの外側に視点は移っていく。究極のフィクションでありながら、ある部分リアルな問題として、読み手の心に波風を立てる。敵とは誰なのか。彼ら全員が勝ち続けたとき、そこには何が待っているのか。


岸本亜紀
(大田垣晴子さんの新刊『わたしって…!(仮)』を11 月に刊行する予定です〜。お楽しみに)

じんとしたり、怒りに震えたり、
感情ゆさぶられまくりのストーリー

中学生になったばかりの夏休み。すでに一人前で自分で何でもできるし、世の中のことはほとんど知った気になっていた子どもたち15 人が学習交流自然学校で、本物の悲しみや喜びや怒りに出会う… …。念じれば動くロボットで敵を倒すという設定は、エヴァンゲリオンだし、敵方ロボットの形状や出現状況も似ている!でも作品にこめられたメッセージはぜんぜん違う。パイロットとなれば命と引き換えだ。子どもたちはそれぞれに人に言えない悩みを抱えている。しかし、敵方の出現は待ったなし。極限状態で、子どもたちの純粋な目には何が映るのか? どんでん返しに続くどんでん。何度も「え〜っ!」と絶叫したり、泣いたり、感動したり。戦いに勝ったのちの未来は明るいのか——? 続きが気になる作品だ。


関口靖彦
(本誌連載小説『青空チルアウト』(中川充)が単行本化! じんわり笑ける関西弁青春小説、ぜひご一読を)

われわれは何を喰って
生きているのか

生きることは、ほかの何かを殺すことの上に成立している。そしてそのことを隠蔽するのが、“先進国”というシステムなのだと思う。この地球を守るために敵を倒す、だがその敵もまた命を持っている。SFとして極めてシンプルな構成で、本作は私たちが何かを殺して生きていることを思い出させる。本作には、搭乗者それぞれのドラマがあり、小出しにされる伏線があり、エンターテインメントとして大変洗練されている。でもその根っこにあるのは、「お前は誰を殺しているんだ?」というプリミティブな問いだ。搾取する国とされる国があり、ろくなメシもくえない労働者の作ったものを強者がむさぼり食い、多彩な娯楽を享受する。このマンガを手に取っているわれわれも、搾取する側の先進国にいるのだ。その“奪う力”を正当化できるのか? ジアースは黙って私たちの操縦を待っている。


波多野公美

(『ぼくらの』連載中の『IKKI』編集長E氏は、ココペリ似。でももっと優しそうです)

「死」を目前にして
はじめて分かること

「子どもたちが主人公の巨大ロボットもの」——この設定で、興味を惹かれない人にこそ、声を大にして、「読んでみて」といいたいマンガだ。『ぼくらの』は、アニメにもマンガにも興味がない読者をも、コックピットに連れて行ってしまう普遍的な力を持った作品だと思う。そこに描かれているのは、誰も避けて通れない「生」と「死」。「死」を目の前にしたとき、残りの人生をどう生きて、迫りくる「死」にどう折り合いをつけるか——そして、そこに浮かび上がる「生」を、どう受け止めるか。中学一年生の少年少女たちが、「死」をもって図らずも見せてくれる「生」の意味を、10代の人は特に、男女を問わず、ぜひ読んで、考えてみてほしい。


飯田久美子
(生身の人間が投球する“リアルバッティングセンター”があるらしいという都市伝説をご存知ですか? 詳しくはダ・ヴィンチ10月号p.149で!)

美しければ美しいほど、

物語は危ない

地球のために戦って死ぬか、何もしないで死ぬか。どっちにしても死ぬことに変わりはないし、どうやって死んだって死は死だと思う。外から見ていると、好きにすればいいと思う。が、実は彼らに選択の余地など与えられてはいない。そして、戦って死ぬことが避けられないとわかったとき、彼らはそこに向かって物語を紡ぎ始める。彼ら一人ひとりに物語を与えることが大きな物語=戦争を可能にする。戦いのその日まで、せめて日常生活を送ることを選んだことはわがままなんかじゃない。彼らにできうる最大限の抵抗だ。あいつらが世界を壊しても、一条の光を、一本の草を、一筋の空気を、自分が好きでいればいい、その気持ちだけは残されているはずとうたった、ヴィアンのあの詩は諦念じゃなく、抵抗の詩なんだと強く思った。一人ひとりの思いなんて、物語にたやすく絡めとられてしまうから。


服部美穂
(「2007 BOOK OF THE YEAR」読者アンケート募集中! オリジナル図書カードが当たる!!)

ぼくらの地球、ぼくらの命
ぼくらはどこへ向かうのか

少年少女が地球を救うために闘う——最初に物語の設定を聞いたときは、リアリティーの感じられないロボット漫画なのではないかと勘ぐったが、読み始めたらページを繰る手が止まらなかった。戦士たちは近未来の日本に暮らす中学一年生の男女。性犯罪やいじめ、複雑な家庭環境など、今時の中学生と同じく問題を抱えて生活している。そんな彼らが、突然地球の命運を握らされる。しかも自分の命と引き換えに。勝っても負けても自分は死ぬのだ。死が避けられない現実になったとき、人はどのような選択をするのか? 私は戦争を知らないが、戦時下に生まれ、若くして兵士になって死んでいった人々は、こうやって戦争に飲み込まれていったのだろうかと思った。


似田貝大介
(上橋菜穂子特集の、二木真希子さんによる描き下ろしイラストは必見ですよ)

がんばれ、ぼくらの地球号

なんだか充足しているとき、「もう死んでもいい」とか「悔いはない」とか、言ってみる。まるで現実感のない嘘だけど、ふいに死をおもってみる。本作は、そんな白昼夢が現実になってしまう。突如現れた巨大な敵を倒すため、ロボットに乗りこむ15人の少年少女。負ければ世界は滅亡し、勝っても操縦者は死んでしまうのだ。己の命と引き換えに世界を救うことができる。ひとりの命とひとつの世界。幼い主人公たちにとって、自分のいない世界にどれほどの価値があるのだろう。いっそ世界もろとも消えてしまうのも悪くはないが、それでも戦える気がする。身勝手な妄想は魅力的だから。「実はぼくがパイロットなのです。命を張って地球を救っています」そんなこと言えたら悔いはないのかも。

イラスト/古屋あきさ

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