西加奈子、直木賞受賞後第一作『まく子』は「かつて子どもだった大人のほうが楽しめる、びっくりできる小説」

新刊著者インタビュー

公開日:2016/3/5

大事なことは信じること 真に受けること

 慧とコズエ、家族やクラスメイトの他にも、さまざまな登場人物たちが現れる。この集落は、噂話を楽しむ習慣はあるものの、悪意がない。大人と子ども、男と女が、やわらかく混じり合う。

「嫌な人が出てこない村にしようと決めていました。“こんな村はないよ。ファンタジーじゃん”って言われてもいいから、純度100%でいい人が出てくる話。希望を書きたいと思って」

 なにより感動的なのは、集落のはずれ者たちにも、この物語はきちんと居場所を与えていることだ。「驚かないでほしい。私は君の未来だ」と言い続ける謎のおじさんミライにも。仕事をしていないでブラブラし、小学生相手に全力の漫画朗読を敢行する25歳の青年ドノにも……。

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「子どもの頃、嘘つきって言われているコっていませんでした? 大人になった今思うのは、信じてあげればよかったなぁと。どうせ嘘やん、じゃなくまずは信じて、もし嘘やって本当に分かったなら、その時に怒ってあげればよかった。その思いを、ドノに託しました。この小説が、誰かにとってのドノみたいな存在になれたらなって思います」

 慧はコズエに、自分の気持ちを伝えることができるのか。コズエの全部を「まるのまま」信じることができるのか? 実は、この物語には大きな秘密が隠されているのだが、それは読んでみてのお楽しみ。

「絶対起こらないなんてことはない。“そういうこともあるかもよ?”って。“小説が一番すげぇんだよ!”って思いながら書きました(笑)」

 正真正銘、度肝を抜かれるだろう。そして、自分という存在が「まるのまま」抱きしめられる感触をおぼえるはずだ。

「あなたは素敵だよって言葉も、お世辞と取るんじゃなくて、真に受ける。信じる。私は素敵。そのほうが、ずっと幸せになれると思うんです。そういう思いを、下投げじゃなく上投げで、全力でまき散らしたら、この本ができました」

取材・文=吉田大助 写真=冨永智子

 

紙『まく子』

西 加奈子 福音館書店 1500円(税別)

ひなびた温泉街で暮らす、小学5年生の「ぼく」。大人の体へと変貌する女子をおそれ、自分の変化にも戸惑う少年の前に、転入生のコズエが現れる。美少女で自由奔放な彼女の言動に、みるみる吸い寄せられていく。子どもたちが一生懸命作った御神輿を、大人たちが山に突っ込んでぶち壊す、毎年恒例の夏祭りの日がやって来る……。直木賞受賞後初の書き下ろし長編。