鈴井貴之「満たされない環境にいると、人間って心に余裕が生まれるんですよ」

あの人と本の話 and more

更新日:2013/12/19

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある1冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、10月公演の舞台『樹海 SEA of THE TREE』に向けて台本を執筆中の鈴井貴之さん。5月に50歳を迎え、少しずつ生活にも変化が出てきたという今のライフスタイルについてお話をうかがいました。

「やっぱり50歳を超えると変わりたくなるんですよ。
“良い人だったよね”って思われて死にたいというか……(笑)。
いい歳のとり方をしたいなって思うようになりました。
だから、というわけでもないですが、実は今、森を開拓しているんです」

この度、生まれ育った北海道赤平市に土地を購入。
荒れた地を時間をかけて整地にしていく。
その作業が今、楽しくて仕方がないのだという。

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「これまで自然に興味なんてまったくありませんでした。
でもね、いざやり始めると興味深いことや新たな発見がたくさんあるんです。
自分の中で一番驚いた変化は、何事にもあせらなくなったこと。
思い通りにならないことでも納得できる余裕が生まれきたんですよね。
それで思ったのが、“キレる”という行動は、ひょっとすると、都会ならではの病気なのかなっていうこと。
都会は、いろんなものに満たされていますよね。
だから、少しでも欠けていたり、意に反することがあると、
すぐ怒りの感情が生まれちゃうんですよ。
その点、自然に囲まれた田舎は最初から満たされていませんからね。
そりゃあ、あせることもないし、心に余裕も生まれますよ(笑)」

ちなみに、大自然だけあって野生の動物ともよく遭遇するそうだ。
しかも、それが舞台作りに意外なところで影響しているという。

「次の『樹海』という舞台で、僕は赤いキツネの役を演じるんですよ。
森の中で悠々と暮らしてきたのに、そこに自殺しようとする人間が現れて、
生活の邪魔をされてしまう。
そんな身勝手な人間たちに、ずっとボヤいている役なんですけど、
普段からキツネを見慣れているだけあって役作りに活かせるという(笑)。
きっと、実体験からにじみ出る迫真の演技を見ていただけると思いますよ!」

(取材・文=倉田モトキ 写真=川口宗道)
 

鈴井貴之

すずい・たかゆき●1962年、北海道生まれ。映画監督、構成作家、小説家、タレントと多彩なジャンルで活躍。自伝的小説『ダメ人間』『ダメダメ人間』(メディアファクトリー)を刊行。劇団「OOPARTS」を復活させるなど、作・演出家としても活躍。

 

紙『17人のわたし ある多重人格女性の記録』

リチャード・ベア/著 浅尾敦則/訳 エクスナレッジ 2100円

著者である精神科医ベアのもとに訪れた女性・カレン。彼女の中には17もの人格が潜んでいた。幼少より父親や祖父に受けた想像を絶する虐待の数々。その苦痛から逃げ出すためにカレンは別の人格を作り続けていたのだ。10余年にわたって人格の統合を続け、一人の完全な人間として再出発するまでを描いた衝撃作。

※鈴井貴之さんの本にまつわる詳しいエピソードは
ダ・ヴィンチ9月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!

 

『樹海 SEA of THE TREE』

作・演出/鈴井貴之 出演/岡田達也(キャラメルボックス)、佐藤めぐみ、井之上隆志、石井正則、他 10月6日(土)より、ル テアトル銀座ほか、名古屋、大阪で順次上演●それぞれの事情を抱え、自殺をするために樹海へと足を踏み入れた4人の男女。偶然出会った彼らは死を決意した理由を語り始めるが、同時に「本当に死ぬ気はなかったのかも」ということに気づく。やがてここから帰ろうと動き出すのだが、樹海の中に出口は見つからず……。