「わたしたちはみんな親戚?」 素朴な疑問に一流が答える

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/22

昔、アニメでやっていた「一休さん」。その中に登場する「どちて坊や」をご存じだろうか?

どちて坊や「どちて毛がないんでちゅか?」
一休さん 「ぶつかって転んでも安心でしょ? その心はケガなくて良かったね」
どちて坊や「どちてくるくるするんでちゅか?」
一休さん 「こうするといい知恵が出るんだよ」
どちて坊や「どちて出るんです?」
一休さん 「どうしてかな? おまじないみたいなもんだよ」
どちて坊や「どちておまじないでちゅか?」
一休さん 「自分でそう思ってるからだよ!」

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さすがの一休さんも、最後はイライラしながら答える。子どもはとても素朴でストレートな質問をぶつけるものだ。大人になればなるほど、「なんで?」「どうして?」なんていちいち考えないものだから、あんまり突っ込まれても答えきれず困ってしまう。

そんなときに便利な質問回答集が『世界一素朴な質問、宇宙一美しい答え 世界の第一人者100人が100の質問に答える』(ジェンマ・エルウィン・ハリス:編、タイマタカシ :イラスト西田美緒子:訳/河出書房新社)。4歳から12歳まで数千人の子どもたちから一番知りたい疑問を集め、それに科学者、歴史学者、哲学者、心理学者などなど、超一流の人々が子どもの目線に合わせてわかりやすく回答している。

■「わたしたちはみんな親戚?」
うーん…ずっとずっと昔に遡ればそのはず。サルが2本足で立って、いっぱい増えて…などという私の要領をえない回答は置いといて、進化生物学者のリチャード・ドーキンス氏は次のように答える。

「だれにでも親がふたりいる。親にもふたりの親がいるから、みんな4人のおじいさん、おばあさんがいる。そうして何世代前まで遡っても、その世代にいた祖先の数を計算できる。2をさかのぼる世代と同じ回数だけかけあわせればいい。100年で4世代遡ると考えたとき、1000年ならおよそ40世代前。2を40回かけると、1兆を超えてしまう。ところが、その頃の人口は、世界中合わせても3億人ほど。でも今計算したのは、たったひとりの祖先だけ。ではみんなの祖先は? 祖先が重なっていると考えるとつじつまが合う。つまり、私たちはみんな親戚どうしということ」

ツッコミようのない答え。言われてみれば簡単なようだけど、自分ではなかなか思いつかない。

■「スポーツで負けてばかりのとき、どうすればやる気がでる?」
「きっと次は勝てるよ、自分を信じて」なんて安易な言葉しか思い浮かばないが、陸上競技選手でオリンピック金メダリストのケリー・ホームズさんは次のように答えている。

「まず、なにかに負けない人なんていないことを知っておいてね。私だって、いつも勝っていたわけじゃない。初めて走った大きい大会では、結果は2着。がっかりしたけど、よけいに次はがんばると心に誓った。どうしても1着になりたかった。がっかりしても大丈夫。もっと強くなりたいと思うきっかけになるから。勝てないことが失敗とは限らない。自分の目標だけを見つめ、達成すれば、その度に上達できる」

金メダリストの言葉には、やっぱり説得力がある。これはきっとスポーツに限らない。人生において何をやるにしてもうまくいかないことってたくさんある。子どもはもちろんだけど、もしかしたら大人の方が勇気づけられる回答かも。

■「どんなふうに恋に落ちるの?」
これにはラブストーリーを書いた2人の作家と、ひとりの科学者が答えている。作家のジャネット・ウィンターソンさん曰く、「恋に落ちるときは、穴に落ちるように落ちるのではありません。宇宙空間に落ちていくように落ちます」。また、小説家で映画やテレビの脚本も手がけるデヴィット・ニコルズ曰く、「自分で落ちようとして、落ちられるわけではない。恋心をコントロールできるくらいなら、失恋も、悲しみも、災害も、戦争だって避けられるだろう。望むかどうかなどおかまいなしに、起きるものは起きる」。これらに対して、進化心理学者のロビン・ダンバー教授は、科学的に説明する。

「恋をすることによって脳の中にドーパミンという科学物質が生まれます。この物質は私たちをワクワクさせます。またオキシトシンという物質は、頭がクラクラするような心地よい感情を呼び起こしているようです。でも、誰を選ぶのかはちょっとした謎です。奇妙なことに、私たちが恋をしていると、相手が完璧な人だと自分に思い込ませることができます」

恋は科学でもうまく説明できないもののようだ。ともあれ、子どもたちの疑問は、大人が今さら考えないようなものばかり。なんでこんなに疑問をスルーしてしまうようになったのだろう? 当たり前すぎて答えを知っていると思っているから? でも、本当は違うかもしれない。もっと難しい問題が山積みだから? 小さな疑問を丁寧に追うことで、難しい問題を解くヒントが見えてくるかもしれない。大人になって忘れていた“疑問に思う心”を取り戻すと、見えていなかった世界が見えて、新しい発見につながりそうだ。

文=佐藤来未(Office Ti+)