カルチャーの象徴だった「カレーを食べるかっこよさ」

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/21

日本人の国民食ともいうべきカレー。だがひとくちにカレーといっても、それぞれ頭に浮かぶカレーは千差万別だろう。インドからイギリスに渡り、日本へやってきたカレーには文化の薫りが漂う。『ダ・ヴィンチ』7月号では、一見なんの関係もなさそうな本とカレーを結びつけた「禁断の最終決戦!本VS.カレー」特集を掲載。スパイス伝道師の渡辺玲氏にインタビューを行っている。本とカレー、その意外な接点とは?

1985年に発売された雑誌『ブルータス』で組まれたインドの食についての特集がぼくにとっての契機になりました。それまで活字でしか触れたことのなかったインドを圧倒的なビジュアルでつきつけられ、感動というよりもショックを受けたんです。自分の見たことのない世界、食べたことのないものがここにある。行かなきゃいけない、と。ちょうど仕事がうまくいっていない時期で、「インドに行けば何か変わるかも」という気持ちもあって、翌年、26歳の時に会社をやめてインドへ行きました。

いま思えば若気の至りなんですが、当時はそういう若者がとても多かった。ヒッピームーブメントやネオアカのカルチャーが浸透していた時代でしたし、ビートルズをはじめとするロックミュージシャンたちは何かあるとインドに行っていました。ある意味で、インドはカルチャーの象徴だったんですね。しかもそれは、どちらかというとサブカルチャー。西洋でも東洋でもないインドという場所に、みな惹きつけられていたんです。

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今はどちらかというと共感性が重視される時代ですが、あのころは「誰も知らないことを知っているのがかっこいい」という風潮が強かった。イタ飯やフレンチが流行っている一方で「俺はそっちじゃないぞ」とインドカレーやエスニック料理を食べる。日本のカレーを食べるより、インドカレーを食べているほうが断然かっこいいわけですよ。「俺はみんなの知らないものを食っているんだ」という自負もありました。

サブカルに触れている人たちというのは情報を得るために本を読みます。その点でも、本とカレー、そして音楽というのは、ひとつながりのものとしてある気がしますね。いわゆるダブル村上のお二人がデビューしたのもこのころで、彼らの作品にはどちらも随所に音楽やサブカルっぽいものが出てきます。

一方で、彼らのような文学青年が、本を読みながら食べるのに一番しっくりくるのがカレーだったんじゃないでしょうか。喫茶店の片隅で、文庫本を片手にひとりのんびりとカレーを食べ、食後にコーヒーを飲む。そうした光景はいまも見られますし、これからもずっと続いていってほしいと思いますね。

取材・文=立花もも/ダ・ヴィンチ7月号「禁断の最終決戦! 本VS.カレー特集」