「魔術師」「ショパン」「バベル城」…これどこの国? 見れば見るほど癖になる! 世界まるわかり「絵本」
更新日:2017/11/21
「ポーランド」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。首都? 出身有名人? 名物料理? 観光地? 特産品? 生き物? 自然? しかしこれらすべてに答えられる人は少ないだろう。ただそれはどこでも同じで、自分が住んでいる国以外のことは案外と知らないことだらけなものだ。
そんな疑問や好奇心を満たしてくれるのが、ポーランド在住で、地図と旅行が大好きという絵本作家夫妻が、日本を含む世界44もの地域と国々(北極と南極もある)を丹念に調べ、絵地図にした『マップス―新・世界図絵―』(アレクサンドラ・ミジェリンスカ&ダニエル・ミジェリンスキ:作・絵/徳間書店)だ。楽しみながら世界を知ることのできる、縦約38cm×横約28cmという超大型絵本だ。
見開きごとにひとつの国や地域がページいっぱいに描かれ、国名や国旗、言語、人口、面積、首都や都市名、山・川・湖・海などの自然、産業や農作物、その国に多い男女の名前、民族衣装、建物や名所旧跡、美術品、名物、名産品、出身の有名人、その国が舞台となった作品、スポーツ、生息する生き物や植物などなど、数多くの情報がイラストでたくさん描き込まれている。
『マップス』P26-27ポーランド
またヘラジカやヨーロッパバイソン、ヒグマなどが棲息し、北はバルト海に面し、南にはカルパティア山脈があることもわかる。
そんなポーランドのページをふむふむと眺めていると「これってなんだ?」と思うものがいくつか描かれていた。例えば左下にいる「パン・トゥファルドフスキ」だ。本書の説明には「悪魔に魂を売った伝説上の魔術師」とある。とても気になったので、さらに詳しく調べてみることにした。
ところがこのトゥファルドフスキ、最後は悪魔の策略にかかって捕まってしまう。しかし抱えられて地獄へ連れて行かれる最中に聖母マリアへ祈りを捧げたところ、悪魔が手を離し、トゥファルドフスキは月へ落ちてしまったそうだ。このエピソードからポーランドでは、月の模様はそこに住むトゥファルドフスキの姿だと言われているとか。またワルシャワの東にある街ヴェングルフにある教会には、トゥファルドフスキが所有したと伝えられる、未来が映ると言われる「魔法の鏡」があるが、ナポレオンがポーランドへ侵攻した際、この鏡をのぞいたところ、ロシア遠征で敗北して自分の帝国が崩壊するという未来を見てしまい、割ったと伝えられているそうだ。
そしてクラクフを流れるビスワ川沿いに建つバベル城では、城のある崖の下の洞窟に、なんと竜(ドラゴン)がいたと言われている。『マップス』を見ると、バベル城の竜として、真ん中の下側に描かれている。
これも伝説を詳しく調べてみたところ、竜は常に生贄を要求していて、ついには王女を差し出せと迫ったそうだ。そこで竜を退治しようと、羊の形のぬいぐるみに火薬を詰めて食べさせた。すると、竜は腹が燃えるように熱くなり、ビスワ川まで辿り着いて川が干上がるまで水を飲んだ挙句、腹が破裂して死んでしまった、という言い伝えがあるそうだ。現在は火を噴く竜の像が建てられ、竜がいたと言われる洞窟は観光地になっているという。
作者夫妻の「何時間でも、何度でも、ながめていられる本を作りたい」という思いがこめられた本書は、実際に開いてみるとその面白さに圧倒される。イラストを見て「これってなんだ?」と気になったものを自分なりに調べてみると、より世界の国々への理解が深まることだろう。子供も大人も夢中になる、世界の文化に触れられる楽しい絵本だ。
文=古田周擴(フルタチカヒロ)
(C)Aleksandra Mizielinska&Daniel Mizielinski,2012