人外×少女『魔法使いの嫁』をファンタジーマニアにも初心者にもおすすめしたい理由

マンガ

更新日:2015/3/10

 私はあまりファンタジーに明るい方ではない。いや、むしろ苦手だといってもよいかもしれない。小説であれ漫画であれ、ファンタジー作品には海外や空想の世界を舞台にしたものが多く、「人名や地名、呪文の名前などになじみがなく、覚えづらい」「その世界観を理解し、ハマるまでに時間がかかる」というイメージを、勝手に抱いていたためだ。
 しかし、この作品にはまいった。冒頭から一気に引き込まれ、ページをめくる手が止まらなかった。

 「この作品」とは、新進気鋭の漫画家・ヤマザキコレのファンタジー漫画『魔法使いの嫁』(以下、「まほよめ」)のことである。

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 主人公・羽鳥智世(チセ)には幼いころから、「他の人には見えないモノ」が視える能力があった。15歳にして、身寄りも生きる希望も失ったチセは、自らを裏オークションに出品。そんな彼女を買ったのは、動物の骨でできた頭部を持つ、ヒトならざる魔法使い・エリアスだった。彼はチセを「弟子」そして「花嫁」として、自然豊かなイングランドの自宅へ招き入れ、魔法使いとしての教育を開始。エリアスとともにさまざまな事件を解決する中で、世界への関わり方を学んでいく――。

 これが「まほよめ」の大まかなあらすじである。ストーリー展開やセリフ運びのうまさ、絵の美しさ、生きとし生ける者に対する、作者のまなざしの温かさなど、この作品の魅力を数え上げればキリがないが、何よりもまず、主人公2人のキャラクター造形が優れている。「父親は早くに失踪、母親が目の前で亡くなり、親戚中をたらいまわしにされる」という過酷な過去を持つチセは、「きみはもう家族のようなもの」というエリアスの言葉に、「誰かとつながること」「居場所があること」の幸せをかみしめる。

 一方、「人の心に共感することができない」という引きこもりの魔法使い・エリアスは、チセを育てることで、何かをつかもうとする。「人外×少女」という刺激的なキャッチフレーズがつけられている「まほよめ」だが、第2巻終了時点では、チセとエリアスの関係はまだ「保護者―被保護者」の域を出ておらず、どこか父と娘のようでもある。そんな2人が今後、どのようにして関係性を変化させていくのか、気になるところだ。

 また、ヤマザキコレは幼いころからイギリスのファンタジー小説や、日本の妖怪小説・漫画等を読み漁ってきたという、筋金入りのファンタジーファン。そのため「まほよめ」の世界観は非常にしっかりと構築されており、私のようなファンタジー初心者だけでなく、ファンタジー好きのみなさんのお眼鏡にも十分適う作品となっている(はずだ)。だからこそ、幅広い読者層に愛され、現時点で第1巻と第2巻合わせて100万部突破という、大ブレーク作品となったのだろう。
 

 第2巻のラストに現れた、邪悪な魔術師との闘いの行方、チセの母の死の真相、エリアスがチセを引き取った真の目的など、気になることや明かされていない事実が山積みの「まほよめ」。第3巻の発売日(3月10日)が待ち遠しくてならない、今日この頃である。

文=村本篤信

魔法使いの嫁』(ヤマザキコレ/マッグガーデン)