衝撃の問題作!? “女子高生に殺されたい”願望を抱く男の行く末は…

マンガ

公開日:2015/3/29

 最近のマンガはおとなしいものが多い。これは、いちマンガ好きのたんなる個人的な意見だ。けれど、あながち的外れではないような気もする。それを読んだ子どもが悪影響を受けるから、子どもたちの人格形成を助けるため…。さまざまな理由をもって、マンガやアニメを規制しようとする人たちがいるのは事実。それを怖がってか、昨今のマンガ業界は、ちょっとおとなしくなってしまったように感じるのだ。

 ところが、つい先日、書店で目を奪われるタイトルの作品を発見した。そう、奇才・古屋兎丸氏による、『女子高生に殺されたい』(新潮社)だ。なにより、このタイトル。不穏さが漂う字面からは、おぞましい内容しか想像できない。

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 物語のテーマとなるのは、主人公・東山春人が抱く、“オートアサシノフィリア”という性的嗜好。これは、「自分が殺されることに性的興奮を覚える」というもの。しかしながら、当人に自殺願望はなく、あくまでも「第三者」の手によって「殺される」ことに意味があるのだ。そんな春人は、女子高生に殺されたいという願望を抱き、高校教師となる。そして、自分を殺してくれる人物、としてターゲットに定めたのが、佐々木真帆だ。さらに、この2人を取り巻くのが、個性豊かな面々。真帆の親友でアスペルガーの後藤あおい、真帆に想いを寄せる川原雪生、春人の元カノで臨床心理士の深川五月など、ヒトクセあるキャラクターたちが物語に奥行きをもたらす。

 着々と計画実行に向けて動き出して行く春人。登場人物たちは誰一人として、彼の陰惨な思いに気がつくことはない。やがて春人は、学校に辞表を提出し、自らの退路を塞ぐ。残されているのは、「殺されてこの世から消える」という選択肢のみ。あとは、計画を滞りなく遂行するだけだ。

 しかし、そんな春人の思惑に周囲は気づき始める。あおいはなにかを敏感に感じ取り、春人のことを「怖い人間」だと評する。五月は、「学校を辞めて旅に出る」とうそぶく春人を見て、「なんらかの妄想に取り憑かれている」と見抜く。

 そして、春人の計画に綻びを生みそうなのが、他でもない真帆が抱えている闇。一見、なんの問題もなさそうな真帆は、幼い頃に受けた親からの虐待により、カオリという別人格を宿していたのだ。カオリは真帆を守るために生まれた存在で、真帆が強いショックを受けると表に出てくる。普段の真帆とは異なり、口調も荒く好戦的な性格の持ち主だ。春人ですら想定不可能なカオリの存在は、おそらく春人の計画の邪魔をするであろう。真帆の未来を守るために。果たして、春人は願いを叶えられるのか、それとも――。

 マンガ業界に殴りこみをかけてきたかのような本作。まさに衝撃の問題作と呼ぶにふさわしい内容で、読み手の倫理観に揺さぶりをかけてくる。来年刊行予定の第2巻で、春人の物語は完結するとのこと。その先に見えるのは、光か闇か。久しぶりに結末を見届けたいと思える作品の登場に、胸の高鳴りがおさえられそうにない。

文=前田レゴ