「名前を貸してくれ」で始まった連載が単行本に! あさのますみ×あずまきよひこ『ヒヨコノアルキカタ』
更新日:2017/11/19
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あさのさん(右)とあずまさん(左)
声優・浅野真澄としても活躍する文筆家・あさのますみさんのエッセイに、『よつばと!』の人気マンガ家・あずまきよひこさんが絵をつけた『ヒヨコノアルキカタ』。本とコミックの情報誌『ダ・ヴィンチ』で人気を呼んだ連載30回に書き下ろしを加えた単行本が刊行されている。連載開始の契機から本の内容まで、赤裸々に語られた『ニュータイプ』誌インタビューのロングバージョンがこちら!
──『ダ・ヴィンチ』連載のキッカケを伺います。
あさの:すでにいろいろなところでも話していますが、ものすごく正直に言うと有名な雑誌でエッセイの連載をしたくてKADOKAWA取締役の井上伸一郎さんにお願いして、紹介していただきました。
──正直です。とはいえ、単に紹介されたから、すぐに連載が始まるほど甘くはないかと……。
あさの:そうなんです。初めて自分から企画を持ち込むので、力強い協力をお願いしようと思いまして……。
あずま:「単独では企画が通らないかもしれないから名前を貸してくれ」と連絡がきました。……ヒドイ話ですよ。
あさの:でも、もともと作品は大好きだったので。
あずま:でも、別にいちばんじゃないでしょ?
あさの:余計なことを言わないでください!(笑)ただ、まあ、包み隠さずいろいろと話したところでご快諾いただけました。
あずま:描くことにはしましたが、エッセイの内容をただマンガにしても意味が無いと思ったので、関連性があるけれど別のものを描こうと決めました。なので「あさのますみ」ではなくキャラクターを考えてちがうものにしようとして……でも、なんで鳥にしたんだろう。
あさの:わたしが鳥を飼っているからじゃないですか?
あずま:そうかも。なんかヒヨコがいいよね、という話になってタイトルの話とかもあって、このキャラクターを作りました。ちょっと口が開いているところと、濁っているというか死んだような目がチャームポイントです。
──「はじめて」をテーマに、おしりが己の身体の一部だと初めて気付く『目からウロコ』や初挑戦した『ヘアカラー』といった自身の「気付き」や微笑ましい体験談とともに、家族との関係修復や過去の傷や痛みも赤裸々につづられています。
あさの:声優という仕事は演じる役のイメージを重ねて見ていただいたりもするので、ラジオとか声優としてのトークでは見せない自分を届けようと決め、普段書けないことも正直に書きました。
あずま:いやいや「正直風」ですよ(笑)。
あさの:さっきから、もー!(笑) でも確かに、これでもだいぶオブラートに包んでいます。両親についても自分のなかで昇華できたこととできていないことがあって、昇華できたことをできるだけ客観的に書いたつもりです。それに多少、生々しくてもヒヨコが愛らしいからいいいか、と思って。
ただ、おばあちゃんが他界したことや絶縁した両親と復縁したことは連載ならではのドキュメンタリーで、書くことで整理できた部分も大きくて、そういう意味では今しか残せないエッセイで、いい機会をもらったなあと感謝しています。
──書いたことで変わったことはありますか?
あさの:筋肉がある人と、歩み寄れる気がしました! 『肉体改造』の前後編があるんですが、ずっと運動が苦手で、運動を推進する人も苦手だったんですが、実際に自分がやってみて、その意義を少しは認められるようになりました。
──絵についてはいかがでしょうか。
あさの:すごく不思議なことですが、おばあちゃんや両親の写真を見せたり話したりしたわけではないのに、なんとなく似ているんです。両親に旅行をプレゼントする『四十周年』で、お父さん鳥が帽子をかぶっているんですが、これ、本当にわたしの父も旅先でずっと帽子をかぶっていたのでびっくりしました。
あずま:そうなの? よかった。
あさの:そうなの! 漫画家すごい!!と思ったし、そこまでイメージを伝えてしまう、わたしの文章力、すごい!!!と思いました……って、冗談ですが。
あずま:いや、今のは本音でしょ。
あさの:ほんとうにうるさいなあ!(笑)
──『通信販売』での中学時代の自分を思い出してのたうつ様子や『穴』の遠く空を見上げる姿と、コマ漫画や1枚の風景画がほどよい距離感で添えられて、もうひとつの物語がつづられているようでした。
あずま:ぼくは今回、完全にあさのますみの後方支援だと決めていたので、そのなかでバランスを見ていろいろな形で描きました。毎回、原稿を受け取ってから、まんがだったり一枚の絵だったりを思いついたまま、そのときにやってみたいこと……水彩画やデジタルで好きなように描いたのでおもしろかったですね。ただ、内容があまりに自分のカラーとかけ離れているときはちょっと頭を抱えました。
あさの:笑いの要素、ゼロ! とか?(笑)
あずま:うん。そういうときは、さて、どうしよう……と考えて。
──おばあちゃんのために御徒町まで指輪を買いに行く『指輪』での町並みと添えられた一言がすばらしく。まるで景色が匂い立つようでした。
あずま:それはね、実際に行ったらほんとにそうだったから。
あさの:えっ! わざわざ行ってくださったんですか?
あずま:うん。御徒町は知らないな、と思って。行って歩いて写真を撮ってきました。
あさの:……知らなかった。ありがとうございます。
──ほかに行かれたところはありますか?
あずま:最後に収録した書き下ろしの一本は一緒に行ったよね。
あさの:ハンググライダーで空を飛びに行きました。小さいころから空飛ぶ話をたくさん読んでいたから、いつか絶対に飛べると信じていたんです。でも、まさかこの年まで生身で飛んだことのない人生を送るとは思わず……。
あずま:……生身で?
あさの:そう! わたしまだ「飛んでないぞ!」と気付いて。だから、あずま先生と編集さんとで飛びに行きました。楽しかったよね。
あずま:うん。だからもう、最後の絵は飛ぶしかないと思って描きました。
あさの:わたしはそれを見て、あ、飛んだ! って思いました。
あずま:ぼくは意識してました。最初の「なやみは地に足がついていないこと」という自己紹介と対になっていて、最後にはその悩みが強みになって羽ばたくという……。
あさの:やっぱり、すごい!
あずま:やっぱり……?
あさの:もー!(笑) 褒めてるんだからいいじゃないですか。
──なかよしです。最後に一言お願いします。
あさの:わたしはエッセイが好きなんですが、世の中にはエッセイが必要ないという人もいるのは知っています。でも、そんな人にも「初めての一冊」として手にとってもらえたらうれしいです。
あずま:ヒヨコが可愛いく描けたので、読んでみてください。
取材・文=おーちようこ