学校のいじめをなくすための画期的な方法とは。絶対的監視システムとロボットによる連行で世界は変わるのか?

マンガ

PR公開日:2024/5/2

いじめ撲滅プログラム"
いじめ撲滅プログラム』(藤見登吏央:原作、ピエール手塚:作画/少年画報社)

 いじめに関する悲しいニュースは絶えない。文部科学省が発表した令和4年度の小・中・高・特別支援学校におけるいじめの認知件数は約68万2000件、うち重大事態の発生件数が923件と、いずれも過去最多の件数だった。当然認知されずにいるいじめも多くあるはずだし、いじめは学校に限らず、地域のコミュニティや職場など、どこででも起こりうる。された側は深い傷を心に負うし、した側だってその後の人生を棒に振る可能性もある。いじめなんて絶対に無い方がいい。でもなくならない。どうすればいいのか。

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 多くの人々が一度は考えただろういじめ問題について『いじめ撲滅プログラム』(藤見登吏央:原作、ピエール手塚:作画/少年画報社)はひとつの実験的なアイデアを見せた。

いじめ撲滅プログラム

 舞台はとある中学校。そこでは校長によって「いじめリアクター」という機材が導入されていた。いじめリアクターとは、被害者の心拍数や心的ストレス、もしくは周囲の視線や加害者の身体的反応など様々な情報からいじめを感知する機材だ。いじめリアクターはいじめを感知すると即座に加害者を連行する。校長いわく「地下の反省室」で「脳に少し手を加え」て優しくなってもらうのだそう。

 正直、思わず「人権どこいった」と突っ込みたくなるような展開だ。しかし、「そうでもしないといじめなんてなくならない」と思ってしまう心情も理解できてしまう。真正面から「いじめはダメだ」と説くことでなくなっているのなら、とうの昔になくなっている。結局、いじめという暴力に対しては、新たな暴力で対応するしかないのだろうか。

いじめ撲滅プログラム

 といっても、当作品は決して「いじめは暴力的な措置で解決するのが正解だ」と言っているわけではない。実際、例えば第一話に登場する明先生は、校長先生の判断に対して「こんなの乱暴すぎる」と真っ向から否定している。また、作中ではいじめリアクターをコントロールしている大人たちの姿が、新たな「いじめの加害者」のように見えてくる場面も多々ある。暴力的な行為で相手を屈服させようとしているのだから、結局根は同じなのだ。いじめをなくそうとして、新たないじめを生み出しているとも言える。

いじめ撲滅プログラム

 ちなみに、上記のような現象は、昨今のSNS上でもよく見られるものだ。例えばネットリンチや私刑と呼ばれるような、何か過ちを犯した一個人に対して大勢の人たちが誹謗中傷する様子は日常的に目に入る。それが原因による悲劇も数多く生まれている。そう考えてみると、「いじめ撲滅プログラム」はその劇的な演出により一見ファンタジーのように思えてしまうが、実際この世の中にはすでに「いじめリアクター」になろうとする大勢の一般市民がいて、とても身近な話とも思える。いじめをなくしたい。その気持ちだけが先走り、気が付けば自分が誰かの人権を無視して加害しているのだ。

 この作品は、そういった誤った正義感で暴走した大人たちによる制裁、そしてその顛末を描いている。「こうすればいじめはなくなります」と主張するものではなく、「結局いじめってどうすればなくなるんだろうか」と考え続けこちらに提起するような作品だと感じた。

文=園田もなか

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