その発想はなかった! 「新選組×ゾンビ」小説、5つの見所

マンガ

更新日:2016/1/13

 映画やドラマをはじめ、アニメやマンガなど様々なメディアで登場する『新選組』。

 歴史的事実として敵対していた反幕の志士たちはもちろんのこと、フィクションの中では妖怪やら宇宙人までもが「敵」となり、多くの未知なるものと刃を交えている。

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 正直、新選組を主軸にした物語は、もう新しい展開を望めないのではないかと感じていた。

 しかしここに、新たなる「敵」が現れた。

 その名もゾンビ。一度死んだ人間がよみがえり、人間を襲うという、海外ドラマでお馴染みのゾンビが、幕末の江戸に現れるのである。

 『新選組!! 幕末ぞんび  斬られて、ちょんまげ』(高橋由太/双葉社)は、新選組とゾンビとの死闘を描いた「その発想はなかった!」と唸らせられるエンターテインメント小説だ。

 物語は京都で新選組を発足する前、江戸の試衛館で近藤勇、土方歳三、沖田総司らが剣術修行をしている文久二年(1862)、「麻疹【はしか】」が蔓延し、「墓場のように静かになった江戸の町」から、怖い物知らずの沖田が試衛館に帰って来るシーンから始まる。

 しかし実は、蔓延していたのは麻疹ではなく、「ゾンビになる病」だったのだ。作者はこの時期に麻疹が流行していたという史実を、巧みにフィクションに織り交ぜている。それから試衛館の一同は、ゾンビから日本を救うべく京都に向かい新選組を発足する……というのがおおまかな流れだ。

「新選組とゾンビ? 意味わからないよ。そんなの、面白いの?」と思った方へ、この作品の見所を紹介したい。

見所1 海外ドラマを観ているような「ハラハラ感」

 ゾンビが出て来る物語には、お決まりの展開がある。それは「大量のゾンビに囲まれ、主人公たちが逃げられなくなる」というシーンだ。もちろん本作にもそういった場面がある。江戸中に現れるゾンビに囲まれ、追いつめられる近藤、土方、沖田。応戦するも、刀は折れ、体力も限界を迎える。「もうダメか」と膝を着く。しかし、そこへ……。と、とんでもない絶体絶命のピンチが幾度も迫る。読んでいると、その度に「どうやって切り抜けるの⁉」と、まるで海外ドラマを観ているような「ハラハラ感」を味わえる。

見所2 ゾンビを治めるための「ミステリー」

 なぜ日本にゾンビが現れるようになったのかは、序盤に明かされるのだが、では、そのゾンビをどうすれば治められるのか。近藤たちはその謎を解くべく、京都に向かう。糸口は死んだはずの吉田松陰(ゾンビとなって登場する)が口にした「キョ……ウ……」という言葉だ。本作は続刊しているので、未だこの謎は明らかになっていない。この謎を追っていくことも、この小説を読む楽しみと言える。

見所3 ラブコメ要素

 ゾンビと闘うだけの色気ないストーリーではない。坂本龍馬の恋人であった千葉さな子という女剣士と、素直になれない土方歳三との恋愛模様がラブコメタッチで描かれている。今後この二人がどのような関係になっていくのかも、気になる展開の一つである。

見所4 ゾンビに噛まれた沖田総司

 序盤で、沖田総司は激戦の中ゾンビに噛まれてしまう。これで死ねば、沖田はゾンビに仲間入りしてしまうらしいが、噛まれたことで命を落とすことも……?
未だ明らかになっていない謎なので、ゾンビに噛まれてしまった沖田がどうなってしまうのか、今後の展開に目が離せない。

見所5 犬がかわいい

 ゾンビとの戦いの最中、沖田は「八房【やつふさ】」という豆柴の子犬を拾う。緊迫するゾンビとの遭遇の中で、八房がとても良い味を出している。例えば、初めてゾンビに襲われた土方と沖田が会話をしているシーン。

「何が起こっているんだ……?」
歳三は我が目を疑った。
「勘弁してくださいよ、土方さん」
「くうん」
「おれに言うな」
「じゃあ、誰に言えばいいんですか?」
「くうん?」
「知るか」

 このように、2人の会話に入ることで、文章に面白みを持たせている。
「わん」や「くうん」だけで感情を表わせているのもすごい。

 以上が主な見所としてあげられる点である。

 新選組ファンはもちろん、娯楽時代小説として一読してほしい一冊だ。

文=雨野裾