テレビドラマ放送中のマンガ『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』の魅力を徹底検証!

マンガ

公開日:2016/4/28


『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』(清野とおる/講談社)

 「さけるチーズ」を極限まで細く裂いて、裂けまくったチーズで顔を撫でて悦に浸る男。自宅マンションのベランダに寝袋を出して、キャンプ気分を味わいつつ寝てみる男……。

 そんな珍妙な人々が次々と登場するも、「何かすげー楽しそう!」「私もやってみたくなった」という感想が多く聞かれるマンガ『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』(清野とおる/講談社)。同作が題材となったテレビドラマ『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』の放送も始まったことで、マンガに興味を持った人も多いだろう。

 そこで今回は、このマンガの魅力をあらためて検証。「“こだわり”と“おこだわり”は何が違うのか」「なぜ、おこだわりを語る人々はあんなに楽しそうなのか」などを考えていく。

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 まず“おこだわり”とは何なのか……という点から確認。マンガ1巻では、“おこだわり人”が次のように定義されている。

日常生活の中で、別にこだわらなくてもいい事に敢えてこだわり、そこに自分だけの幸せを見いだしてコソコソと楽しんでいる輩

 この定義の第一のポイントは“コソコソと楽しんでいる”という部分だろう。

 おこだわり人は、「靴にはこだわりがあって、エドワード・グリーンとジョン・ロブしか履きません」「書き心地にこだわってペン先を探し求めて、この万年筆にたどり着きました」みたいにペラペラと自慢気にこだわりを語らない。というか、基本は人に喋らない。あえて人に話すものでもなく、本人にとっては“普通”のことだからだ。

 このマンガを読んで「何か楽しそう!」と思えてしまうのは、登場人物たちがあまりに恍惚とした表情で、そのおこだわりを開陳しているからだろう。

 2つめのポイントは“自分だけの幸せ”という部分だ。

 「こだわり」という言葉で披露されるものは、何だかんだでイケていて、話をすんなり理解できるものが多い。一方で「おこだわり」は、“お”が付いている時点で少しマヌケだし、万人に理解可能なものとは限らない。というか、人に話したらドン引きされそうなものも多い。

 たとえば、ドラマにも登場した、帰り道を楽しむことに“おこだわり”のある男。彼の披露した「朝に家を出るとき、植え込みの中に自宅のカギを隠し、ドキドキを味わいながら帰りにカギを回収する」という話には、楽しさを超えて狂気すら漂いはじめている(でも笑ってしまうのだが)。

 というか、このカギ隠しを行う男は、背徳感や罪の意識を利用して、その“おこだわり”の楽しさを増幅させているようにも思える。このマンガに登場する食べ物には「美味しそうだけど食べ過ぎはよくない」ようなものも多い。「やっちゃいけないことをしている」という背徳感がある……というのも“おこだわり”の一つの特徴なのかもしれない。

 また本作では、おこだわりを聞き出す清野とおるのリアクションにも注目だ。ベランダを楽しむ男の話を聞いた後は「ベランダッハッハー!」と叫びながらベランダを転げまわる。さけるチーズのおこだわりの食べ方を実践した後は、幸せのあまり体が避けてしまう……。

「怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ」という言葉があるが、このマンガの清野とおるは、珍妙な人たちと同じレベルで戦うために、自らも相当ヤバい人と化しているのだ。

 このように冷静に見ていくと、『その「おこだわり」~』は「こんなマンガがヒットしちゃって日本は大丈夫なんだろうか」と心配になるほどの狂気をはらんでいる。なお“フェイクドキュメンタリー”と銘打ったドラマも、何がウソで何がホントか分からない不穏な空気が漂っている。マンガとはまた違う面白さがあるのでぜひチェックを!

文=古澤誠一郎