羽海野チカ『3月のライオン』で描いた「記憶の中の自画像」
公開日:2011/9/5
彼女は、子どもの頃から、いつか絵を描いて食べていくのだと決めていたという。内気で多感な少女にとって、学校は居心地のいい場所ではなかった。幼いながらに、それしか自分の生きる道はないのだと思い詰めていたのだ。
『3月のライオン』5巻に登場する、茂みに身を潜める少年時代の桐山零(主人公)の姿は、記憶の中の自画像でもある。
「遠足の時、ひとりでお弁当食べてたりすると目立っちゃうじゃないですか。先生に“なんで仲間に入らないの?”って言われちゃうから、いつも茂みの中でひとりで食べていたんです。たぶん、そういう人が私の読者さんにもいるはずで、これを描けば、同じく草の中に隠れていた人たちが“ああ、わかるよ。羽海野さん”って言ってくれると思って描きました」(羽海野さん)
「子どもの頃、友達とするべきだった会話や遊びの時間を全部、絵を描くことと物語を読むことに費やした」と語る羽海野さん。彼女のマンガにかける情熱の源は、小さいころからの覚悟にあるようだ。
(ダ・ヴィンチ 9月号 「羽海野チカ 精一杯の真実」より)