自分の出世のために、次々に部下をつぶしていく「クラッシャー上司」の実態

ビジネス

公開日:2017/1/24

 医学博士である松崎一葉が、相手の心を攻撃する「クラッシャー上司」の精神構造に迫った『クラッシャー上司 平気で部下を追い詰める人たち』が発売された。

 「俺はね、(部下を)5人潰して役員になったんだよ」。この言葉は、大手某社へ松崎が招かれた際、その会社の常務が言い放ったもの。このように部下を精神的に潰しながらどんどん出世していく人たちのことを、精神科医の牛島定信と彼の教え子である著者・松崎は「クラッシャー上司」と名付けた。彼らには「自分は善である」という確信があり、他人への共感性は決定的に欠如している。精神的に未熟な「デキるやつ」なのだ。

 同書では、「ネチネチ論理的に責める男」「部下が憔悴しきっていることに気づかない鈍感男」「家庭まで壊してしまう男」など、松崎が豊富な経験に基づいてクラッシャー上司の具体例を紹介。さらに部下の心を攻撃する本当の理由や、「我が身可愛さで公に尽くさないことは恥である」とする日本人に特徴的な精神構造など、クラッシャー上司を生み出す要因を分析している。そして最終章で、会社と部下にとっての最善の対策を提案。精神科医の斎藤環は同書の帯に以下のようなコメントを載せている。

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本書には「クラッシャー上司」を流行語にしないための本質的なアイディアが詰まっている。斎藤環

 「働き方改革」が叫ばれ、日本社会が大きく変わろうとしている昨今。心を攻撃する上司に悩まされている人はもちろん、管理職や経営者もクラッシャー上司の存在や問題について、同書を読んで考えなくてはいけないのかもしれない。

「こんな上司が実在するなんて!」――衝撃事例の一部

◇共感性の低い上司(A)のもとで働いた結果、メンタル不全に陥った若い女性社員(F)の話

Aは、悪意を持ったクラッシャーではない。やる気のある優秀な部下の成長を期待して、仕事を任せ、その支援にも熱心だ。クライアントの理不尽な要求に負けまいと頑張る部下の残業に自分もつき合い、叱咤激励している。
しかし、そうされる側の部下が、どれだけ辛い思いでいるか、その部分の共感性がかなり低いのだ。言い換えれば、他者の痛みに鈍感なのである。なぜ鈍感なのか。それは、自分のやり方は正しく、こうして部下を鍛えている自分の言動は善である、という確信に揺らぎがないためである。
(中略)
そう、Aは、鈍感でマネジメントが下手なのだ。優秀な部下に大きな仕事の裁量を与えたところまではいいのだが、その結果、部下の時間的裁量を奪ってしまった。つきっきりの支援で、食事の自由も、トイレに行く自由までも奪い取ってしまう。そんな環境下に置かれた部下のストレスは、当然、相当なものなのだが、そこに気づいていない。食欲の落ちた部下に、「無理してでも食わないと持たないぞ」と言ったのはAの善意だ。無理してでもトンカツを食べ、エネルギーを充填して、難局を乗り切る。A自身、若い時分にそうして仕事を覚えていったのだろう。
そういう成功体験があるから、メンタル不全で自宅療養となったFF対して、「やっぱり最近の若いのはダメだなあ」と言ってしまう。実に残酷なもの言いなのだが、Aに良心の呵責はまったくない。さほどに成功体験に根ざした鈍感性が強いのである。
(「事例1 つきっきりの指導」より)

◇クラッシャーBに潰された部下はたくさんいるが、明るく元気いっぱいな入社三年目社員(G)がやられた例

この日の会議では、ついこないだまで職場のヒーローだったGが、男泣きした。
ポロポロと涙を落とすGに向かってBは、「そうすることが、皆の善意と貴重な時間をどれだけ奪っているか。だから、いいから早くディスプレイの……」と急き立てた。容赦がなかった。
部下を雪隠づめにするとき、課長Bは決して声を荒らげたりしない。同じトーンで、矢継ぎ早に、次から次へと言葉を繰り出す。表情ひとつ変えず、三十分でも一時間でも質問と要求を投げ続ける。
(中略)
Gは、「課長は私を一回も褒めてくれませんでした」と言い残して会社を去った。彼が一番言いたかったことは、この一行に集約されている。課長Bは、人を褒めるという行為ができない。マイナス部分の指摘ばかりで、他者のプラス部分を見ないのだ。
多くの人は、仕事で褒められ評価されたいという「承認欲求」があることで、やるべきことを頑張ることができる。だから、職場の上司の仕事のうちとても重要なのは、部下の承認欲求を満たす上手な「褒め方」なのである。
実は「褒める」ことも、部下の「成功して嬉しい」という気持ちに「共感」することなのだ。つまり、この課長Bにも「共感」する力が欠けていた、ということなのである。
(「事例2 表情ひとつ変えない雪隠づめ」より)

松崎一葉
筑波大学医学医療系産業精神医学・宇宙医学グループ教授。1960年茨城県生まれ。1989年筑波大学大学院博士課程修了。医学博士。産業精神医学・宇宙航空精神医学が専門。官公庁、上場企業から中小企業まで、数多くの組織で精神科産業医として活躍。またJAXA客員研究員として、宇宙飛行士の資質と長期閉鎖空間でのサポートについても研究している。「クラッシャー上司」の命名者の一人。

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