広末涼子、10代の頃の愛読書

芸能

公開日:2012/9/8

 デビュー以来変わらない、さわやかな笑顔が印象的な広末涼子さん。今回お薦めしてくれた本は、ミラン・クンデラの恋愛小説『存在の耐えられない軽さ』。映画も大ヒットした世界的なベストセラーだ。
「映画を先に観ました。ジュリエット・ビノシュの初々しくて体温を感じられるような演技も好きでしたし、男女の価値観の違いが時代背景とともに濃密に描かれていて、全体的にとても惹かれた映画です。それで原作を手にとってみたのですが、活字は活字で全然違って。でも、この小説あってのこの映画だというのがすごく納得できました」

 広末さんが本書を初めて読んだのは、10代の頃。抽象的で難解と言われる文章はすんなり理解できたのだろうか。
「高校生くらいの頃って、哲学的なことに関心を持ちますよね。観念的な事柄を言葉にしてもらえると安心するというか。ニーチェやカントなどをちょうど読んでいたので、それほど違和感なく入っていけました。受験勉強のときのクセなのか、この頃に読んでいた本って気になったフレーズや文章に線を引いているんです。昔ここに線を引いていた自分が愛しいですね(笑)」

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 たとえば、どんなところに線を引いていました?
「主人公のトマーシュは女性とは一緒に眠れなかったのに、テレザとすごした晩は朝まで同じベッドで寝られるんです。気がつくとテレザがトマーシュの手を握ったまま眠っていて、『何か未知の幸福の香りがひろがってくるように思えた』と表現されているところとか。こう感じるトマーシュって男性ならではなんだろうなって当時は思っていました。懐かしいですね」

 そんな広末さんの新境地ともいえる映画『鍵泥棒のメソッド』が9月15日に公開される。前作『アフタースクール』で観客を見事に騙した内田けんじ監督作品。売れない役者が記憶を失った殺し屋と入れ替わり、思いがけない大トラブルに巻き込まれるという物語だ。
「内田監督といえば、“どんでん返し”ですけれど、この作品も伏線の張り方がすごく緻密。監督の演出も意表を突く発想が多くて、それがシュールな笑いにつながっているのだと思います」

 広末さんの役どころは、香川照之さん演じる記憶喪失の殺し屋に恋する几帳面な雑誌編集長・香苗。まじめにやればやるほど笑いを誘うタイプの役柄だ。
「いままでお芝居とは感情を解放することだと思っていたのですが、今回は反対に自分らしさをそぎ落とすことを要求されて、すごく新鮮でした。毎回ドキドキでしたが、こんな広末涼子は初めて見た! と言っていただけたら、とても嬉しいですね」

広末涼子さんが選んだ1冊
存在の耐えられない軽さ』 ミラン・クンデラ/著 千野栄一/訳 集英社文庫 860円
1968年の「プラハの春」とその前後のチェコを舞台に、優秀な外科医でつねに複数の恋人たちとの逢瀬を楽しむトマーシュと彼を愛するテレザ、彼と長年にわたり「性愛的友情」を育む画家のサビナの運命を描いた恋愛小説。共産主義体制の不条理のなかで人間らしく生きようとする彼らの姿を生き生きと描いている。

取材・文=タカザワケンジ
ダ・ヴィンチ10月号「あの人と本の話」より)