空白が生みだす恐怖! 人気ホラー作家が編んだ「怖い俳句」のアンソロジー

公開日:2012/12/8

怖い俳句

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 幻冬舎
ジャンル:教養・人文・歴史 購入元:電子文庫パブリ
著者名:倉阪鬼一郎 価格:820円

※最新の価格はストアでご確認ください。

もしも小説、戯曲、詩、短歌といったあらゆる文芸形式をひとつの会場に集め、「どれがいちばん恐いか」という世界大会を開いたとしよう。文学の異種格闘技戦のようなものだ。最後に勝利するのはどの形式だろうか。それはおそらく俳句だろう、と本書の著者・倉阪鬼一郎はいう。著者によれば「俳句は世界最短の詩」であると同時に「世界最恐の文芸形式」なのである。

advertisement

そう聞いて、「え、俳句のどこが最恐なの?」と疑問を抱く方もいるだろう。
確かに俳句といえば桜が咲いたとか、孫が笑ったとか、身近な光景を5・7・5音で綴った文学形式というイメージがある。国語の時間に習った松尾芭蕉や正岡子規を思い返してみても、「恐怖」や「ホラー」といった言葉とは結びつきそうにない。

しかし、松尾芭蕉から現代の若手俳人まで、「怖い俳句」というテーマで作品をピックアップした本アンソロジーは私たちのそうした俳句観を根底から覆してくれる。

具体的に見てみよう。
巻頭に置かれているのは「稲づまやかほのところが薄の穂」という松尾芭蕉の俳句。一見なんてことのない光景だが、じっくりと味わってみてほしい。薄曇りの空、遠くで稲妻がピカッと光る。その光によって、ススキの穂と人影が浮かびあがる。しかし、顔(かほ)のところはススキに隠れていて見えない。首から下だけが、ぬっと立っている…。

俳句のもつ恐ろしさは、この句に端的に示されている。つまり、書かれていない空白部分を想像してしまう恐怖である。俳句は5・7・5というごく短い音で構成されているために、どうしても空白部分が生まれてしまう。そこに読み手は、ついつい自分の中に眠っている不安や恐怖を投影してしまうのだ。ほかにも幾つかあげてみよう。
「戦争が廊下の奥に立つてゐた」(渡邊白泉)
「百年後のいま真っ白な電車が来る」(小川双々子)
「処刑場みんなにこにこしているね」(小池正博)

もし気に入った句を見つけたら、是非とも画面から(ページから)目をあげて、しばらく妄想を膨らませてみてほしい。自分だけの短編怪奇映画のワンシーンが、頭の中に広がってゆくはずだ。味わい方は無限大。著者の卓抜な鑑賞文を参考に、書かれていない空白をじっくり覗き込んでみよう。

ホラー小説数百編分の怖さをぎゅっと凝縮した本アンソロジー。俳句なんてまだまだ縁がないよ、と思っている人にこそ読んでもらいたい。俳句こそ「世界最恐」、読み終える頃にはきっとこの意見に賛成したくなっているだろう。


『怖い俳句』表紙

「まえがき」より。俳句こそ世界最恐、という主張が述べられている

あの芭蕉もこんな怪奇な句を詠んでいた!

こちらは与謝蕪村。教科書のイメージが覆る?

これも謎めいた句。著者の鑑賞文がとても参考になる

「怖い川柳」もしっかりカバー