空白が生みだす恐怖! 人気ホラー作家が編んだ「怖い俳句」のアンソロジー
もしも小説、戯曲、詩、短歌といったあらゆる文芸形式をひとつの会場に集め、「どれがいちばん恐いか」という世界大会を開いたとしよう。文学の異種格闘技戦のようなものだ。最後に勝利するのはどの形式だろうか。それはおそらく俳句だろう、と本書の著者・倉阪鬼一郎はいう。著者によれば「俳句は世界最短の詩」であると同時に「世界最恐の文芸形式」なのである。
そう聞いて、「え、俳句のどこが最恐なの?」と疑問を抱く方もいるだろう。 確かに俳句といえば桜が咲いたとか、孫が笑ったとか、身近な光景を5・7・5音で綴った文学形式というイメージがある。国語の時間に習った松尾芭蕉や正岡子規を思い返してみても、「恐怖」や「ホラー」といった言葉とは結びつきそうにない。
しかし、松尾芭蕉から現代の若手俳人まで、「怖い俳句」というテーマで作品をピックアップした本アンソロジーは私たちのそうした俳句観を根底から覆してくれる。
具体的に見てみよう。 巻頭に置かれているのは「稲づまやかほのところが薄の穂」という松尾芭蕉の俳句。一見なんてことのない光景だが、じっくりと味わってみてほしい。薄曇りの空、遠くで…