ついに電子化! 芥川賞作家の名作が原作の、センセイと心を共鳴させる恋愛コミック

公開日:2013/7/17

センセイの鞄 1巻

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 双葉社
ジャンル:コミック 購入元:BookLive!
著者名:川上弘美 価格:540円

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社会人になって、同窓会が増えると、ときに恩師が呼ばれていることがあります。近年でこそ、“友達型”の先生が増えたといわれますが、やはり子どもにとっての先生は圧倒的に目上の存在で、まさか自分と同列に語ることはできません。同窓会の席で、そんな「先生」と一緒に酒を酌み交わすことに感慨にひたる人もあるでしょう。

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さて、本作は芥川賞作家・川上弘美の代表作のひとつでもある同名の恋愛小説を、谷口ジローによりコミック化されたもの。全2巻。原作である小説は2001年度谷崎潤一郎賞を受賞、2003年に放送されたテレビドラマは、文化庁芸術祭優秀賞をはじめ、いくつかの冠を得ている名作です。

本作の主人公は、37歳のツキコという名の女性。行きつけの居酒屋でいつも“たまたま”隣り合って酒を傾けるのは、30歳と少し離れた高校の恩師です。古文担当の「先生」は、ツキコにとって「先生」ではなく、「せんせい」でもなく、カタカナで「センセイ」。高校のときには、特に好きでも嫌いでもなかったけれども、酒の時間を過ごすうちに、徐々に特別な存在に。原作者が得意とする「空気感」を絵で再現しつつ、ゆったりとした、オトナの恋愛が情緒豊かに描かれます。

本作の大きな魅力としては、「ただ原作を絵にした」のではなく「小説に絵をつけた」とでも表現したくなる、情緒の圧倒的なボリューム感。心情の機微が繊細に、深く描かれており、セリフも詩的なので、小説を1冊読んだかのような充実感が読後に得られます。

さらしくじら、ホウレン草の胡麻和え、茄子のしぎ焼き。肴と酒の趣味が合う相手と、賑やかな居酒屋でぽつりぽつりと会話をしながら、心をゆるやかに共鳴させる。大人になると、心が守りに入って、人と新しい関係を気づきにくくなる、という実感を持つ大人は少なくないのでは。本作の2人のように、「じっくりと大切に育てていくオトナの仲」っていうのもいいなぁ、ときっと憧れるはず。


はじめは先生の名前すら出てこなかった。ただの、高校時代の教師と生徒。特に親密でもなかった間柄だったが…

肴と酒の好みが合うのは、お互いが似ている証拠

野球の話題で不穏な空気に。オトナのケンカは無言の手酌で
(C)原作:川上弘美、作画:谷口ジロー/扶桑社