苦悩に満ちた独白は誰のものか。壊すというタイトルは伊達じゃない!

公開日:2014/5/10

人間失格 壊

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 秋田書店
ジャンル:コミック 購入元:BookLive!
著者名:二ノ瀬泰徳 価格:566円

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“不意をつかれる”
というのは案外少ない経験ですが、本作はその数少ない経験のひとつになりそうです。
『人間失格』といえば、かの文豪・太宰治の遺作。2009年には、古屋兎丸によるマンガ化。2010年には生田斗真主演の映画が公開され、近年でも記憶に新しい名作文学です。

 ところが、実はもうひとつあったのです。マイナーながらも、同時代に3つ目の人間失格リブートが行われていたのです。それが本作、『人間失格 壊』です。

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 著者の二ノ瀬泰徳はその筋では“触手漫画家”として知られています。古典純文学と触手。一見すると、絵柄や、登場人物のアレンジ具合にド肝を抜かれるかもしれません。むしろ、既出の作品を好む方からすると、1ページ目から敬遠されるかもしれません。なぜかといえば、かくいう自分がそういった印象を持ったからです。つまり月並みないい方をすれば、“嫌な予感”がした作品であるということです。

 しかし、不意をつかれたのです。嫌な予感を拭いきれずにいたものの、本作から感じたのは間違いなく“人間失格”だったのです。大胆なアレンジとクセのある表現でありながら、全くもって人間失格だったのです。一種のリメイク作品でありながら、垣間見えるのは太宰ではなく本作著者自身の苦悩。原作における最大の芯はブレることなく、全然別の人間失格になっているという、実に見事な作品です。

 大庭葉蔵の生涯を追っているのか、作者自身の生涯を体感しているのか、まるで苦悩の迷宮に迷い込むような作品です。古屋兎丸版・人間失格が王道の洗練された文学漫画であるとすれば、本作は超アウトサイダーといっても良いかもしれません。

 うごめくアウトサイダー漫画家が、何もかもかなぐり捨てて描いた本作。
「恥の多い生涯を送ってきました」
という有名な文句は一切出てきませんが、読みきった後にはきっと原著の言葉が自然と浮かんでくることでしょう。あなたには見えるでしょうか。絵の向こう側にチラチラとみえる、透かしのように焦げついた煩悶が…。


葉蔵は漫画家という設定

人間に対する嫌悪が、触手のように葉蔵を苦しめる

苦悩を隠し、生きるために演じるのは“お道化”

人間恐怖、人間地獄。逃げ場はいずこに…