そのもどかしさが、恋愛の王道。タイと東京に流れる爽やかな風

小説・エッセイ

更新日:2015/9/29

タマリンドの木

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android 発売元 : ボイジャー
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:池澤夏樹 価格:432円

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 物語は、国が特定できない難民キャンプの様子から始まります。まったくのあらすじも何も知らずに読み始めたので、「あぁ。辛い話だなぁ。」と暗い気持ちになっていたのですが。ところがどっこい、現代の日本の技術系の会社でセールスエンジニアをしている野山隆志と、タイの難民キャンプで働いている樫村修子の恋のお話です。

 遠いタイの難民キャンプで幼稚園の運営や子供たちの世話をしている修子と、東京の典型的なサラリーマンで船舶用のエンジンを売っていた隆志がいったい、どんな風に絆を深めてゆくのでしょう? 出会いシーンから、小さな事件、小さなつながりがどんどん2人を親密にさせてゆく様が、美しく、そして優雅なスピードで展開します。

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 働く国も違えば、業種も違い共通点のない2人。彼女が日本には一時帰国でしかないとわかっているのに落ちてしまう恋。ディテールがしっかりしていて、そして登場人物が2人ともまじめなので(笑)、ある意味説得力があり、安心しながら読める恋愛もの。こういうわかりやすいストライクゾーンの恋愛物語は、久々に読んだ気がします。

 めまぐるしい東京のスピードと、タイの緩やかな時間の流れのコントラスト。一緒にいたいのに、いられないもどかしさ。まさに恋愛の王道のリソース満載。近頃、夢のない設定、過激な表現、あけすけな性描写などが蔓延しているこのジャンルで、一粒の清涼剤のようなさわやかな物語といえるでしょう。

 現代日本では意を持って海外へ渡る女性も多いはず。そんなとき、オトコはどうするのか? 好感度大の、1冊。現代的な恋愛に疲れた人にお勧めします。


難民キャンプの様子から始まる冒頭

ふたりが繋がる舞台は出来上がり

こんなに違うのに惹かれてしまう

女も覚悟を決めて働きます