憧れの大学生活を想像できる、中高生必読の良作!?
更新日:2012/3/2
お金がなく、身なりは冴えず特に人気もなく、勉強で目立つわけでもなく、運動能力もそこそこ。あるのは、人一倍強い自負心と、若者特有のリビドーと、そこからくる暴発せんばかりのエネルギー。おまけにナルシスト。
これ、物語の主人公「私」のことです。作中では明らかにされていませんが、描写から推測するところ、おそらく京都大学に通っています。京大生は個性が多いと言われていますが、同時に、器用だとも思います。
仕事柄、京大生にインタビューすることもしばしばありますが、主人公「私」のように不器用で愛すべき個性にはなかなか出会えません。貴重な存在です。あ。自己紹介が遅れました、私、教育ライターのルートつつみと申します。
四畳半の住人である大学3回生の「私」は、冴えない大学生活に悶々としながらも、華を求めている。それはつまり、理想の女性像である「黒髪の乙女」イコール後輩の明石さん。一方、「私」には、粘っこくまとわりついてくる悪友「小津」がいる。小津は、ビビビのね◯み男のような狡猾さと周到さで、「私」をしきりに悪の道へと引きずり込もうとする。この2人の暴言混じりのやり取りも、読み進めるうちに、妙に愛着がわいてくるんですよね。じつは、絶妙のペアなんじゃないか、と思います。類は友を呼ぶのですね。
「こんなはずじゃなかった」「あのとき、こうしていれば」とは、誰もが一度は思うことではないでしょうか。特に、若さ故の過ちを犯してしまう学生時代にあっては!
『四畳半』では、ある地点を境に分岐した4つの人生が並行世界として描かれます。映画サークル「みそぎ」に入部した場合、“師匠”樋口に弟子入りをした場合…などの人生。ガツーンと衝撃の結末は、読んでのオタノシミです。
古風で独特な文体、ひねりがある言い回し、イギリスのかのコメディユニット「モンティ・パイソン」的なインテリブラックユーモア…ガッツリ文章を堪能したいという文学好きも満足させてくれる良作だと思います。そして、「大学生活って、実際どんななの?」と思っている中高生は、(ネタだと思って)ぜひ読みましょう。いや、実用的な価値はさておき、大学生活は意欲的に楽しまねばいけないなぁ、とは思うはずですから。
夜中にこのレビューを書いているんですが、嗚呼、猫ラーメンのおいしそうなこと…。ラーメンを食したいなぁ、と学生時代とは違い、今ではメタボ気味になってしまった腹と相談してみたり。
“妖怪”小津があなたの友達なら…
登場人物たちが愛して止まない「猫ラーメン」。猫から出汁を取っているというウワサがある
物語中にたびたび出てくる、占いオババ。いいように乗せられる「私」
どんな道を選んでも、今の人生と変わらない。物語の顛末を示唆しているかのようなセリフ
明石さんに対しては、意外にも純愛であります!
最終話で、無限四畳半地獄に引きこまれていく冒頭…なんという恐怖!