防犯探偵・榎本、最初の事件! 何重もの密室の謎を暴けるか?

小説・エッセイ

公開日:2012/5/30

硝子のハンマー

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : KADOKAWA
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:貴志祐介 価格:799円

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ある日曜日、介護会社の重役たちが休日出勤をしていたとき、殺人事件が起きた。しかしビルのそのフロアに入るにはまず警備員室の前を通り、エレベータには暗証番号が必要で、廊下には監視カメラ、他の部屋には人がいて、窓は開け閉めできない嵌め殺し…何重もの密室に、防犯探偵・榎本径が挑む!

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大野智さん主演の人気ドラマ『鍵のかかった部屋』の原作シリーズ、第一作である。セキュリティショップの店長で防犯のプロ(しかしてその実態は…)である榎本径と、弁護士の青砥純子が初めて出会うのが本書。今のところシリーズ唯一の長編だ。純子が客を装って榎本のセキュリティショップを訪れたときの、榎本のホームズばりの洞察が楽しい。

二部構成となっていて、第一部では事件の概要とそれに対峙する榎本&純子コンビの推理が、第二部では犯人側の視点で動機と真相が語られる。

第一部の読みどころは、先走り気味のスットコドッコイ推理を繰り出す純子に、榎本(ドラマに比べるとより人間的!)が冷静につっこみながら展開する推理だ。何重もの密室に対して、ふたりは多くの仮説を立て、ひとつひとつ検証していく。もちろん真相以外はどこかが間違っているわけだが、それでも「なるほど、そんな手があるのか!」という、その発想とバラエティに驚かされる。パズルゲームとしての面白さもさることながら、惜しげもなく繰り出される密室トリック案。捨て推理にするにはあまりにもったいない、別の短篇で使えばいいのに、と思うほどだ。

一方、第二部はぐっとドラマティック。第一部が物理トリックの章なら、こちらはサスペンスの章だ。犯人がこれまでどのような人生を送り、なぜ犯行に踏み切ったのかが語られる。犯罪の手法については榎本に見破られるわけだが、この動機は犯人側の視点でなくては語れない。それがこういう構成をとった理由だ。そして犯人側から語られることで、ただ単に「密室を作りました」「解きました」というだけではない、手に汗握る心理サスペンスが生まれている。

ドラマを見て「防犯探偵・榎本シリーズ」に興味を持った方は、ぜひ本書を読んでみていただきたい。キャラや設定の違いだけでなく、短編原作のドラマのおもしろさとはまた別種の、長編ならではの醍醐味が味わえる1冊だ。


密室と言えば、図面でしょ!

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マーカー部分にはメモ書きも可能。怪しいと思った箇所をチェックしてあとで一覧で見れば、榎本より先に真相に辿り着けるかも?