ドラマ放送中『レッドブルー』、波切敦が描く総合格闘技“MMA”の世界。主人公が天才になってはいけない理由は?【インタビュー】

文芸・カルチャー

公開日:2025/1/21

木村慧人(FANTASTICS)を主演に迎え、絶賛放送中のドラマ『レッドブルー』。原作は波切敦氏による同名タイトルの漫画で、日陰者の道を歩んできた主人公・青葉が、格闘技界の天才・拳心を寝技で絞め落とすべく、総合格闘技“MMA”の世界を最速で駆け上がっていく……異色の下剋上スポーツ漫画として人気を博している。今回は作者・波切敦先生にインタビューを敢行。知られざる作家遍歴から、本作の誕生秘話までたっぷりと語ってもらった。

『レッドブルー(1)』(波切敦/小学館)

始まりは、クラスの日陰者が天才を倒す物語

――まずは、波切先生のこれまでの歩みについてお伺いします。前作『switch』ではバスケットボールを、それより前の読切りではバドミントンやボクシングと、これまでずっとスポーツものを描かれていますよね。

波切敦さん(以下、波切):デビュー前は『黒子のバスケ』や『ハイキュー!!』のアシスタントをしていて、その当時は『HUNTER×HUNTER』のような少年漫画の能力バトルものを描きたいと夢見ていましたがなかなかうまくいかず……。このままではダメだと思って、精力的に持ち込みをするようになったときに小学館の編集者の方から「動きがうまいね」とアクションの描写を褒められたんです。それがきっかけで、アクションが活かせるスポーツものを描くようになりました。『switch』でバスケットを題材にしたのは、やはり連載となると王道スポーツの方が受け入れられやすいかなと思ったのと、僕自身『SLAM DUNK』が好きだったから。あと担当編集の宮川さんがバスケガチ勢だったからというのもあります(笑)。

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――そんな背景があったんですね。今作で数あるスポーツのなかからMMAを題材に選んだ理由を教えてください。

波切:もともと格闘技を見るのが好きだったというのが大きな理由です。「RIZIN」はもちろん、「K-1」「PRIDE」の時代から熱心に見ていました。

――主人公・青葉は、少年誌のスポーツ漫画には珍しく日陰者かつひねくれ者という設定ですが、彼はどのようにして生まれたのでしょうか。

波切:『レッドブルー』は「クラスの日陰者が天才を倒す物語」というイメージからスタートした作品で、実は青葉ではなく天才・拳心の方が先に生まれたんです。拳心は打撃の天才かつ無敗王者という設定だったので、そんな拳心に挑むのは一体どんな奴だろう? と。それで、拳心のカウンターとしてグラップラーにしたり、正反対な性格にしたりすることで、青葉というキャラクターが固まっていきました。

(2巻/第14話より)

波切:ただ、少年漫画誌の主人公といえば、拳心のようなタイプが主人公になることが多いので、連載初期の頃は「青葉に共感できる人がどれくらいいるのか?」と、編集部内で不安の声もあったようです。ですが、「MMA甲子園」本戦がスタートしたあたりから、物語の盛り上がりに引っ張られて青葉というキャラクターが徐々に受け入れられていく印象を受けました。王道タイプの拳心を主人公にするのではなく、あえてライバルに据えたという自分が描きたいことの意図が伝わったといいますか、みなさんに受け入れられて良かったなと思います。

「青葉は天才になってはいけない」天才を倒す物語ゆえの苦悩

――当初の想定と違う行動を取り始めるなど、青葉を描く上で大変なことはありますか?

波切:キャラが勝手に動きだす感覚は全くなくて、どちらかといえばキャラがズレないように頑張っている感じです。例えば、「MMA甲子園」で勝ち進んでいくとなると、漫画の展開的に青葉を天才にせざるをえない瞬間がある。でも、天才を倒す物語なので、青葉が天才になってはいけないんです。物語の根幹をぶらさないために、青葉が“天才寄り”にならないよう色々と調整しながら描いています。

――天才を倒したいけど、天才になってはいけない。ものすごく難しいバランスを攻めていますね。既刊12巻のなかで特に思い出深いシーンはありますか?

波切:羽鶴戦です。羽鶴が腰を痛めていることを知った青葉は、その弱点を狙って飛びつき三角絞めを仕掛るのですが、相手を故意に痛めつけて勝利を狙っていくところに“青葉っぽさ”が出て良かったなと。彼のキャラが立ったと思いますし、最終的に羽鶴の反則で青葉が勝利するところも気に入っています。

(4巻/第37話より)

――その他のキャラクターについても詳しくお聞かせください。描くのに苦労したキャラクターはいますか?

波切:鉢屋には苦労しましたね。彼は生まれつき身体能力が強い“怪物みたいな天才”というキャラクターで、最終的にはセコンドの光ちゃんとの関係も相まって根は優しいという性格になりましたが、当初はイメージが全然つかなくて迷いましたね。

――自分の想像以上に盛り上がりをみせたキャラクターを挙げるとしたらいかがですか?

波切:雨地です。物語の根底に「天才を倒す」というのがあるので、“日の目を見ない天才”というイメージで雨地を描きました。想像以上に人気があるし、実際に柔術をやっているという人が「雨地さんみたいな人って本当にいる」とコメントしていて、こえ~って感じです(笑)。

( 2巻/第17話より)

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