バディは恐竜!?魔都・上海を舞台に繰り広げられるスパイ・アクション『龍と霊 ―DRAGON&APE―』【書評】
PR 公開日:2025/1/22

恐竜は絶滅していなかった! 彼らは人類同様に直立二足歩行へと進化し、歴史の影に潜んでいた。そんな「もしも」の世界、第2次大戦前夜の上海を舞台繰り広げられるスパイ・アクションが『龍と霊 ―DRAGON&APE―』(久正人:原案、東直輝:漫画/講談社)だ。『ジャバウォッキー』で恐竜と女スパイのバディを描いた久正人氏の原案を、『警視庁草紙-風太郎明治劇場-』で明治初期の混沌とした時代を表現した東直輝氏が描きあげている。
本作は、史実をベースに練り上げられているものの、歴史の知識がなくとも楽しむことができる。スパイ・アクションの基本にのっとり「世界のために、悪いやつらから、大事なものを奪い返す」というのが、大まかなストーリーだ。「悪いやつら」とは、人類の歴史を裏から操ってきた恐竜の秘密結社「殻の中の騎士団(ナイツ・イン・ザ・シェル)」、「大事なもの」とは恐竜と北京原人がともに形を残す化石「龍の勝利」だ。人間と恐竜のバディ、陸軍中野学校で諜報部員として鍛え上げられた爆発のスペシャリスト・銃三(じゅうぞう)とオヴィラプトルから進化した恐竜のダンテは、「殻の中の騎士団(ナイツ・イン・ザ・シェル)」が人類を絶滅へと導き、彼らが歴史の表舞台へと繰り出そうとするのを防ぐため、奔走することとなる。

本作はハッタリのきかせ方が抜群にうまい。どんなに馬鹿げたことでも、作品の中で納得ができるものであるならば、読者は自然とそれを受け入れることができる。ダンテの暗闇でもよく見える目、超人的な射撃の技術は、彼が「人ならざるもの」であることを、見事に表している。強風が吹き荒れる列車の上で、ダンテが精密射撃を見せるシーンがある。現実において、こんなことはありえないだろうが、それでもダンテならやってくれるに違いないという説得力がある。

ほかにも「殻の中の騎士団(ナイツ・イン・ザ・シェル)」のシンボルマークとして「@」が使用されている。今日では目にしない日はないであろう「@」だが、本作においては人類由来の文字ではなく、もともとは恐竜が生み出したものだとされている。人類が初めて南極点に到達した際、そこには「@」が残されていたという。嘘に説得力を持たせるのが、とにかくうまいのだ。

そうした説得力の積み重ねと、洋画(というかその吹き替え)のような小気味いいセリフまわし、東直輝氏の筆致が組み合わさって、「二足歩行の恐竜が、秘密結社を築いて、人類滅亡を企てる」というケレン味たっぷりな物語を、見応えたっぷりなスパイ・アクションへと昇華させている。
原案の久正人氏によって、氏の過去作品『ジャバウォッキー』と同一世界の物語であることが明かされている本作。古くからの読者には嬉しい限りだろうが、本作で初めて久氏、東氏を知るという読者も、歴史の影で人知れず繰り広げられたスパイの戦いに胸が熱くなることだろう。