SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第43回「『好き』ってなに?」
公開日:2025/1/27
私は音楽が好きです。いや、何言ってんだ冒頭から。しかしながらこれは、バンドマンの当たり前すぎる自己紹介にあらず、この言葉が持つ本質の話であったりする。ちなみにこの言葉とは主に「好き」の方だったりする。
本当にちゃんとそのモノが事が好きなのか考えることがよくある。ちゃんと好きでいられているかどうかを。こと私の場合は、それが一番わかりやすく伝えられるだろうと思ったから音楽を挙げるのだが、他の誰かにとって、そしてあなたにとっては「好き」と聞いてパッと思い浮かぶモノで構わない。絵が好き、本が好き、スポーツが好き。もしかしたら人には当てはまりづらいかもしれないからあくまでモノにしておこう。
まずは、ちゃんと好きってなんだろう。もちろん定義なんてものは絶対にない。それぞれの好きが存在して然るべきだし、誰にどうこう言われるような筋合いはない。ただ好きなモノに対して人間は、割と拗らせやすい生き物だということが去年アメリカのなんかの学会で発表されて話題を呼んだ。ん、ロシアだったか、違うなメキシコだったかも。あ、グアテマラだ。いや発表されてないかも。失礼。
それぞれの形なんだから好きなものに拗らせるもなにもないだろうと思うかもしれないが、好きなものだからこそ拗れ捩れ捻れが顕著に表に出るのだ。想いが強いが故なのか、他者にどう見られているのかが気になるのか、それって大丈夫? みたいな好きは案外この世の中にたくさんある。どの立場からそんな達観したようなこと言ってんだ、と思われるかもしれないので先手を打っておくが、私も音楽に対して好きを拗らせた一人だからこんな達観したようなこと言ってんだ。
さて、私の好き遍歴の始まりは幼少期から始まる。物ごころ付く前から爆音で音楽が流れていた渋谷家にはたくさんのレコードと、たくさんのテープと、たくさんのCDがあった。海外のものだと、主にツェッペリン、サバス、ディープ・パープル、クール&ザ・ギャング、ビー・ジーズ、アイザック・ヘイズ、日本のものだと、頭脳警察、オフコース、山下達郎、中島みゆきなど。とにかくたくさんの音楽に囲まれて育ったので、初めて買ったCDもオフコース、次がglobe、次がジャミロクワイと同一人物とは到底思えない所業であった。中学生の時はとにかくJ-POPを上から順に毎週のようにMDに焼き、高校生の時は放課後毎日のように新宿のディスクユニオンのパンクマーケットでレコードとCDを漁った。ライブハウスに行くことも覚え、日本脳炎、ECHO、VIVISICK、IdolPunch、54-71など日本のアンダーグラウンドと呼ばれる音楽にどっぷりと肩まで浸かって毎日のぼせていた。
十代の頃のこの経験の中でも、好きは徐々に変化していっているのだが、当時は気が付く余地もなく。今になってわかることだが、二十歳を迎えるまでに自分の好きは若干拗らせたものに変わっていたのだと思う。
しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。2025年4月に結成20周年を迎え、SUPER BEAVER 自主企画「現場至上主義 2025」を4月5日、6日にさいたまスーパーアリーナで行い、さらに、6月20日、21日に自身最大規模となるZOZOマリンスタジアムにてライブを行うことが決定。
自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中